いつの間に水素に方針転換したの!? スカニアが間もなく燃料電池トラックを発売へ

最優先は引き続きBEV

 とはいえ、スカニアの最優先事項は引き続きBEVトラックだ。その理由として同社は、一般的な顧客にとって広範囲に市場展開される最初のゼロ排出技術がBEVであることを挙げる。

 しかし変革を加速するためには、あらゆる種類の再生可能エネルギーが必要となる。水素は約束されたエネルギーキャリアであり、長期間にわたり再生可能エネルギーを貯蔵する優れた方法だ。

 再生可能エネルギーによって作り出されるグリーン水素は、将来的にエネルギーシステムの脱炭素化に向けて重要な役割を果たすことになる。

 このため、BEVトラックの提供を拡大し、より多くの市場セグメントと架装の要求を満たして来たのと同じように、スカニアはグリーン水素が果たすであろう役割についても強い関心を寄せている。

 「排出ゼロの輸送に向けた変革を加速するためには、オープンな考え方も必要となります。ある方法ではゼロ・エミッションの実現が難しい輸送でも、別の方法なら実現可能になるからです」。(スカニアのパイロット・パートナー責任者、トニー・サンドバーグ氏)

水素エンジンでもブレイクスルー

 いっぽう、水素を内燃機関で燃焼させる水素エンジンでも、スカニアは10月に画期的な実験結果を発表している。カナダ・バンクーバーを本拠とする代替燃料システム大手のウェストポート・フューエル・システムズと共同で、ディーゼルエンジンを超える熱効率を達成したのだ。

 両社が共同で行なった実験は、スカニアの13リットル級「CBE1」プラットフォーム(最新のディーゼルエンジンのベースとなる共通プラットフォーム)にウェストポートの水素燃料システム「H2HPDI」を組み合わせたエンジンの性能に関するもの。

 CBE=コモン・ベース・エンジンは、スカニアとトレイトングループ(VWの商用車部門)が欧州の次期排ガス規制・ユーロVIIへの対応などを目的に開発したもので、世界で最も厳しい排ガス規制への適合と、燃費、高トルクを同時に成立させるクラス最高の次世代エンジンプラットフォームだ。

 このベースエンジンにウェストポートのHPDI技術を採用した水素燃料システムを組み合わせ脱炭素エンジンとした。

 初期の実験では、正味熱効率(ピーク)は51.5%、道路負荷で48.7%という結果を得た。これはベースのディーゼルエンジンと同等か、それを超える効率だ。

いつの間に方針転換したの!? スカニアが間もなく水素燃料電池トラックを発売へ
スカニアのCBE1プラットフォーム(排気量13リットル)+ウェストポートのH2HPDIシステムの水素エンジンは最新のディーゼルエンジンより高い熱効率を示した

 排ガスの出ない燃料電池とは異なり、水素エンジンはディーゼルエンジンと同様にNOxを排出するが、こちらもユーロVIIや米国の次期排ガス規制・EPA27の範囲内とみられる。

 スカニアの上級技術顧問、エリック・オロフソン氏はこの水素エンジンを次のように評価する。

 「水素HPDIというコンセプトを実証するにあたって、ベースとなるディーゼルエンジンのシリンダヘッドにわずかな設計変更を行ないました。それ以外の吸排気系、後処理装置、クランクケースなどは変更していません。

 それにもかかわらず、高いローエンドトルク(BMEP/正味平均有効圧は900rpmで28bar)と、優れた過渡性能を示しました。

 これは、言い換えれば短い開発期間と少ない投資で素晴らしい製品を市場に投入できるということです。とりわけ、長距離輸送や充電インフラが限られる地域においては水素エンジンによりBEV商用車を補うことができそうです」。

 両社は11月中にもこのエンジンの初期試験を終え、次のステップに進むことにしている。

 水素燃料を使った内燃機関は、既存の技術が使えるためコスト効率に優れた方法で脱炭素を実現し、特に高い信頼性が求められる大型商用車での活用が期待されている。

 電動化を本命としていたスカニアだが、いつの間にか水素技術でも世界をリードし始めている。

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