ドイツの自動車メーカー・BMWグループが主導する、水素エンジン(水素を燃料とする内燃エンジン)搭載トラックの共同研究プロジェクトが、ドイツ政府の事業に採択された。
今後、4年間のプロジェクト期間中に総重量18トンのトラック2台と同40トンのトラック2台を製造し、実際の運用を経て、水素エンジンによる持続可能な輸送を実証する。
共同研究(コンソーシアム)のメンバーには、老舗の内燃機関メーカーや、水素技術の新興企業、国際石油資本なども名を連ね、技術面だけでなくインフラや運用も含めた包括的な評価を目指している。
乗用車メーカーのBMWは水素エンジンのパイオニアでもあり、2007年には世界初の量産型ラグジュアリー水素サルーンを謳った「ハイドロジェン7」が日本市場にも投入された。
BMW・ハイドロジェン7は時期尚早だったと言う他ないが、同社が水素エンジンの実用化を諦めたわけではない。水素の利用がより適しているとされる大型トラックで、国際コンソーシアムとともに水素エンジンの可能性を模索している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/BMW Group・KEYOU GmbH・DEUTZ AG・ヤマハ発動機・クボタ・Cummins Inc.
トラック用に高い可能性を秘めた水素エンジン
2022年9月28日、BMWグループが主導する、水素燃料を使った内燃エンジン(H2-ICE、以下「水素エンジン」と呼称する)搭載トラックの共同研究コンソーシアム「HyCET」が、ドイツ連邦交通デジタル省のプロジェクトに採択された。
今後は、プロジェクトの投資の大部分をドイツ政府が拠出することになる。
BMW以外のメンバーは、内燃機関メーカーの老舗で水素エンジンも開発しているドイツ社、運送会社のDHLフレート、ディーゼルエンジンから水素エンジンへのコンバートを手がける新興企業のケヨウ、国際石油資本のトタルエナジーズ(フランス)、そして商用車メーカーのボルボ・グループ(スウェーデン)だ。
(日本でもトヨタ、いすゞ、デンソーなどがタッグを組んで水素エンジンに取り組んでいる)
この研究プロジェクトの目的として、水素エンジンを搭載したトラックを実際の輸送に使用することで、その持続可能性を証明することを挙げている。また、HyCETコンソーシアムでは技術開発に加えて、公共の水素充填ステーションなど、必要とされるインフラについても調査する。
水素エンジンは、水素燃料電池(FC)EVに比べると製造コストの安さが、バッテリーEVと比べると航続距離の長さや充填時間の短さなどがメリットとなる。また、乗用車で問題になるボイルオフ(長期間放置すると水素燃料が気化して無くなってしまう)も稼働率が高い商用車では問題にならない。
特に大型トラックでは積載重量と積載容量の両面から水素エンジンの利点が活かせる。また、ディーゼル車と変わらない耐久性と架装性など、用途の汎用性においても水素エンジンに大きな優位性がある。
燃料として再生可能エネルギーから製造する「グリーン水素」を使用すれば、CO2を出さない長距離輸送を実現できる。このため水素燃料電池と同じく水素エンジンもEUの規定では「ゼロエミッション車」とされる。
政府の支援と多分野の協力が不可欠
HyCETの研究プロジェクトは総額で1950万ユーロ(28億円)の投資を予定しているが、そのうち1130万ユーロはドイツの連邦交通デジタル省(BMDV)による資金提供となる。また、これに関連してBMDVは大型トラック用の水素充填ステーション(公共施設)2箇所の建設にも570万ユーロを投じる。
BMDVの大臣政務官を務めるダニエラ・クラッカート氏は次のように話している。
「水素技術は私たちにモビリティを考え直す機会を与えています。特に、多様な要求がある運送業界には適しており、優れたエネルギー貯蔵ソリューションである水素は、環境に優しい輸送のために、モビリティにおいてバッテリーEVを補うものだと考えています。
私たちが支援を決定したHyCETプロジェクトは、大型車による貨物輸送に水素エンジンを使用することで、包括的な評価を行なうものです。こうした実運用を通じて得られた成果は、輸送分野に適した代替ドライブトレーンを選択する際に役に立つでしょう」。
プロジェクトの期間は4年間。その間に水素エンジンを搭載する総重量18トンのトラック2台と、同40トンのトラック2台を開発し、日常業務において使用することで水素エンジントラックを評価する。
業務で使用するためには水素のインフラも必要となるが、ライプツィヒとニュルンベルクに大型商用車用の水素充填ステーションを建設する予定だ。
このクラスの大型水素エンジントラックを、日々の輸送業務に使用するのはドイツでも初めてとなる。従って、研究・開発からインフラ整備まで、トラックは包括的な評価を受けることになる。多分野の協力は不可欠だ。
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