商用車への投資を拡大する背景
EUがCO2の排出削減に力を入れているのは周知のとおりだが、HDVセクターの排出量は2014年以降、増え続けている(新型コロナウイルスのパンデミックのあった2020年を除く)。
特に貨物輸送での排出量が急激に増えており、その背景として道路輸送の需要が拡大していることがある。こうした需要拡大は当面の間続くと予想されており、2019年のデータによると、航空セクターより44%、海運セクターより37%多くのCO2が道路輸送により排出されている。
(ちなみに欧州の貨物の77%をトラックが運んでいる)
今日の大型車の99%は内燃エンジンを搭載し、その大部分が燃料として軽油を使うディーゼル車だ。EUは燃料の多くを輸入に頼っており、こうしたエネルギー依存が、ウクライナ紛争によるエネルギー市場の不安定さに繋がっている。
現在のHDV排出基準は2019年のもので、もはやEUの環境目標に沿ったものではなくなってきた。商用車への投資を拡大する必要があるにも関わらず、既存の法規は、投資家に対して明確かつ長期的なシグナルを送ることができず、また、現在のエネルギーセクターとグローバルに加速する大型商用車の開発の現実を反映したものでもない。
欧州委員会はこうした背景から新しいHDV排出基準の提案を行なったもので、EUの環境目標と「55パッケージ」(2030年に1990年比で温室効果ガスを少なくとも55%削減するために、EUにおいて必要な構造改革と税制改正を行なうという政策パッケージ)、およびパリ協定に沿ったものとなる。
この提案を実現するためには、ゼロエミッション車の開発と充電・充填インフラ整備への投資を拡大する必要があるが、委員会は既に「代替燃料インフラ規制」を提案しており、インフラ整備と大型車のグリーン化を後押ししている。
インフラ提案には、例えば主要高速道路における充電・充填設備の導入などが含まれており、電気自動車用の充電施設は60km毎、水素の充填施設は150km毎に設置することなどを提案している。こちらは最終決定にむけて、委員会と立法府が集中的に取り組んでいるところだという。
トラックメーカーの準備はできている?
欧州委員会の副委員長で、欧州グリーンディールを担当するフランス・ティメルマンス氏は、この提案の意義を次のように強調した。
「気候変動と大気汚染をなくすという目標を達成するためには、輸送セクターの全ての部門が積極的に貢献する必要があります。2050年には欧州の道路を走る車両は、ほぼ全てゼロエミッションでなければなりません。
私たちの環境関連法と、私たちが暮らす都市がそれを要求しており、欧州のトラックメーカーはそのための準備を進めています。本日の提案により、トラックからの排出はより少なくなり、ゼロエミッションのバスが都市を走るようになると確信しています。
環境危機と戦うこと、EU市民の生活の質を向上させること、欧州の産業競争力を高めることという3つは、お互いに密接に関連しているのです」。
いっぽう、欧州の自動車メーカーでつくるACEA(欧州自動車工業会)はこの提案に関して、関係者が協調して取り組む必要があるとするとともに、強力なインセンティブ(助成金)とカーボンプライシングの枠組み、そして大きく改善されたインフラを直ちに導入することなどを求めた。
ACEAの商用車部会の代表で、ボルボグループCEOのマーティン・ルンドシュテット氏は次のように述べている。
「私たちの準備はできています。しかしながら、2030年にマイナス45%というCO2排出削減は極めて野心的です。政治家の皆さんには、同じだけの野心を持って行動に移していただかなければ、目標の達成と輸送・ロジスティクスのバリューチェーン確保を両立することは難しくなります」。
また、ACEAの事務局長を務めるシグリッド・デフリース氏はメーカーだけが責任を負わされることを危惧している。
「トラック特有のニーズを満たす充電ステーションは、今はまったくないと言っていい状況で、とてつもない挑戦になります。私たちが深刻に懸念しているのは、他の利害関係者がその責任を果たさないことで、車両メーカーに重いペナルティが課されるのではないかということです。
一部の加盟国が『代替燃料インフラ規制』に示している野心のレベルが低いことを考えると、そうなる可能性は充分にあります」。
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