2025年6月4日、「トラック新法」が参議院本会議で可決され成立した。トラック業界の構造改革を目指し、全日本トラック協会などが超党派の議員に働きかけていたもので、5月27日に衆議院を通過していた。
約35年前の規制緩和による自由競争から一転、新しい規律のもとトラック運送事業は「許可更新制」となり、質の低い事業者は業界から排除される。白トラの禁止や多重下請けの制限、ドライバーの処遇改善、適正運賃の収受なども盛り込まれ、運送業界は大きな転換期を迎えている。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
業界肝いりの「トラック新法」が成立
いわゆる「トラック法」(貨物自動車運送事業法)の一部を改正する法律案と、それに関連して適正化のための体制整備等を推進する法律案で構成する、通称「トラック新法」が衆参両院の審議を経て2025年6月4日、可決・成立した。
この法案は、運送業界の構造改革のため坂本克己会長を中心に全日本トラック協会(全ト協)が超党派の議員に働きかけていたもので、議員立法による成立を目指していた。
同法では改革の柱として「事業許可更新制」「適正運賃の収受」「下請け制限」「白トラ禁止」などが掲げられた。坂本会長は、約35年前の物流2法改正で事業参入が許可制に、運賃が届出制となったことが過当競争の原因と指摘しており、自民党トラック議連などに改正を強く求めていた。
トラック運送業界は1990年の規制緩和以降、参入障壁がほぼなくなり事実上の自由競争下にあった。
自由競争による運賃の低下は消費者に歓迎されるいっぽう、適正な原価を下回る格安運賃で仕事を受けて過積載などの違法行為により利益を上げる「運賃ダンピング」をはじめ、悪質な行為ががはびこりトラック運送の質の低下を招く結果となった。
規制緩和が「悪貨は良貨を駆逐する」形となり、このことが運賃の低迷やトラックドライバーの労働環境悪化を招いているという指摘は多く、働き方改革による「2024年問題」の遠因にもなっていた。
規制緩和から一転して規制強化を求めるトラック新法の成立で、運送業界は大きな転換期を迎えそうだ。
なお、トラック新法や物流2法の改正などを根拠に、物流における荷主側のルールが段階的に強化されていくことは確実となっており、「特定荷主」(一定規模以上の大手の荷主)に様々な義務が課される年限から、一部では既に「2026年問題」という呼称もささやかれている。
規制緩和から一転? 運送業界の新しい規律
全ト協・トラック業界肝いりの構造改革案となるトラック新法のもと、トラック運送事業は5年ごとの事業許可更新制となる。これは貸し切りバスなどと同じだ。
国内の運送事業者の数は6万社を超えており、なかには運賃ダンピングや白トラ(白ナンバー=自家用トラックによる無許可営業)など悪質な行為に手を染める事業者もある。こうした事業者を業界から排除する仕組みを設けることでトラック業界全体として質の低下に歯止めをかける狙いがある。
また、全ト協がかねてより「下請けは2次まで」と提言しているとおり、真荷主から元請として運送を引き受ける場合、再委託回数を2回以内とする努力義務が新たに課される。多重下請け構造は日本の商慣習の問題とはいえ、中でもトラック業界は下請け次数が多いとされる。
トラックを保有せずに運送を再委託する利用運送会社は「水屋」とも呼ばれる。求貨・求車のマッチング事業なども利用運送に相当するため、一概に「水屋が悪い」とは言えないものの、5次請け、6次請け……と再委託が繰り返されることで実運送を担うドライバーの手取り収入の低下を招いているのは事実だ。
そのドライバーの給与の原資となるのが運賃で、トラック新法では適正原価を下回らないように国交大臣告示の「標準的運賃」に法的根拠を与える。他の事業者に運送を委託する場合も適正原価を継続して下回ってはならないことが明記され、下請けであってもトラックドライバーをはじめとする労働者の適切な処遇の確保が求められる。
さらに無許可事業者による白トラの取り締まりを強化し、白トラを利用した荷主に対しては関係機関への通報や是正指導、勧告・公表を可能にするなど、荷主側も責任を追及されることになった。
関連法のうち「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」は公布日に即日施行され、「下請け制限」や「白トラ禁止」は公布から1年以内に施行する。
それ以外の部分については具体的な制度設計や許可更新等の事務を行なう独立行政法人の調整、財源の確保等が必要なことから、公布から3年以内を目途に施行する見通しとなっている。
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