19世紀の「早馬」がコンセプトに? ベンツが効率的な中継輸送プロジェクトを最新トラックで支援

19世紀の「早馬」がコンセプトに? ベンツが効率的な中継輸送プロジェクトを最新トラックで支援

 ドイツのメルセデスベンツ・トラックスは2025年5月27日、ディーゼル車とBEVトラックによる効率的な中継輸送を支援するパイロットプロジェクトを支援すると発表した。

 プロジェクトのコンセプトは、なんと150年前の早馬による「ポニー・エクスプレス」の復活だという。最新のBEVトラックと馬には、移動手段として意外な共通点があるようだ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG

19世紀の「馬」による輸送が現代に復活!?

19世紀の「早馬」がコンセプトに? ベンツが効率的な中継輸送プロジェクトを最新トラックで支援
「アクトロスL」と「eアクトロス600」

 150年以上前の輸送原理は、現代のトラック輸送にも適用可能だろうか?

 メルセデスベンツ・トラックスとドイツのアーヘンを本拠とするテクノロジー企業のマンシオは19世紀の「ポニー・エクスプレス」を最新車両で復活させるパイロットプロジェクトに取り組んでいる。
(なお、Mansioは古代ローマ時代の街道に整備された公共の馬車停留所のこと)

 ポニー・エクスプレスは150年以上前の1860年ごろに米国で誕生した郵便サービスだ。

 自動車が発明される前の時代としては高速なサービスで、米国ミズーリ州からカリフォルニア州までのおよそ3200kmという距離を、郵便物を少しでも早く届けるために早馬でリレーしていた。それでも全行程を走破するのに10日間かかり、40人の騎手と120頭の馬が必要だったそうだ。

 ポニー・エクスプレスは可能な限り早く荷物を届けるためにリレー方式の輸送を採用しており、人や馬の休憩のために途中で中断することなく荷物を動かし続けた。

 いっぽう、メルセデスベンツ・トラックスが支援する新しいリレー輸送は、車両の稼働率を最大化することに重点を置いている。

 トラックドライバーが中継地点で別のドライバーとトレーラを交換する中継輸送は、日本ではトレーラ・トラクタ方式(ヘッド交換方式)とも呼ばれる。輸送をトレーラ化できることが前提だが、交換作業も短時間で済むため、ドライバーの拘束時間短縮に向けて国内でも注目されている。

 また、トラックが会社に戻るのが早くなれば、次の便の出発も早くなるので車両の稼働率向上が期待でき、運送会社にとっては採算性を高めることに繋がる。ドライバー不足が世界的に深刻化する中、シフト終了後にドライバーが自宅に帰れることも働き方改革として重要だ。

 こうした中継輸送は自社で大量の荷をまとめられる大手運送会社では既に一般的に行なわれているが、運送業界の大多数を占める中小企業で実現するには異なる企業間の協力が欠かせない。2025年春に開始したこのプロジェクトは、企業間のデータ交換を標準化し、その実現に向けた道を開くものだという。

中継輸送はトラックの電動化にも利点が

19世紀の「早馬」がコンセプトに? ベンツが効率的な中継輸送プロジェクトを最新トラックで支援
マイレンスの充電パークとeアクトロス600

 メルセデスベンツ・トラックスでプロジェクトを担当するマーティン・ガイザート氏は次のように話している。

「リレー方式の輸送はディーゼル車でもバッテリーEV(BEV)でも機能します。ただ、両方の運行がきちんと管理され、いっぽうのトラックを待たなくても良い場合のみ有効です。運行状況を同期させ、望ましい効率を実現するために、時にはリアルタイムでデータ交換を行なう必要があります。

 マンシオのソフトウェアは、異なる企業のシステム間のインターフェースとして機能し、各車両の位置や予想される到着時間、BEVトラックのバッテリー残量、走行ルートや積み荷など、必要とされる様々な情報の調整を行なっています」。

 パイロットプロジェクトはドイツのマンハイム(ダイムラー・バスの拠点)とライプツィヒ(同社のサプライヤーがある)間で行なわれ、運送会社のロジスティク・シュミットと協力会社が6カ月間毎日運行する。

 マンハイム・ライプツィヒ間の距離は約500kmで、往復すると約1000kmという距離となるため、現状のBEVトラックでは単純な代替が難しい輸送だ。

 ほぼ中間にある中継拠点でメルセデスベンツの最新のフラッグシップ大型BEVトラックとなる「eアクトロス600」と大型ディーゼル車のハイエンドモデル「アクトロスL」が合流し、トレーラを交換したのちそれぞれの出発地点(マンハイムとライプツィヒ)に戻る。

 中間地点までの往復となるのでそれぞれの走行距離は約500kmとなり、これはeアクトロス600の射程圏内だ。本来であれば1000kmの航続距離が必要な輸送において、ディーゼル車より航続距離の短いBEVトラックを活用できるのは、中継輸送のもう一つのメリットといえるだろう。

 19世紀の輸送コンセプトを復活させたリレー方式の中継輸送だが、運送会社の収益改善とドライバーの働き方改革、そして車両の脱炭素化という現代のトラック運送の課題を同時に解消する野心的なプロジェクトとなっている。

 なお、eアクトロス600はマンハイムの工場とヘルムスドルファー・クロイツで充電を行なうそうだ。ヘルムスドルファー・クロイツにはダイムラーやボルボなどが合弁で運営するマイレンスの「充電パーク」があり、インフラ整備が進めば大型車用の充電パークを中継拠点とするなど活用の幅も広がりそうだ。

【画像ギャラリー】メルセデスベンツ・トラックスの「eアクトロス600」と「アクトロスL」(6枚)画像ギャラリー

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