ダイムラーの技術トップ・ゴールバッハCTOに聞く
自ら6人のドライバーのアンカーを務めた、ダイムラートラックの技術開発トップ、アンドレアス・ゴールバッハCTO(最高技術責任者)に、今回のレコード・ランについてうかがった。
■レコード・ランにおける技術的な意義は?
「リアルワールドにおける1000km走行は初めての挑戦です。サプライズが起きることは避けられません。渋滞、天候、そしてGenH2はあくまでも試作車ですから、量産車のように熟成されてもいません。技術的な問題は覚悟しなければなりません。しかし、リアルワールドという条件で1000km走ること自体が特別な経験であり、重要なポイントなのです」
■到着直後でデータ解析はこれからだと思いますが、新発見はありましたか?
「予想よりも水素消費が少なかったことです。FCの効率が、シミュレーション予測値を上回っていました。これは、制御系の『運用戦略』*によるものと考えています」
*注:「運用戦略(Betriebsstrategie)」とは、ここではFCの作動、バッテリーのSOC、駆動軸への出力などを、体系的にコントロールすることを指している
■トータルの燃費値は?
「走行100kmあたり7kgの液体水素を消費しました。シミュレーションでは、だいたい7.2~7.3kgあたりを予測していたのです。タンクにはまだまだ液体水素が残っています」
■やはりPPCも貢献しているのでしょうか?
「運用戦略と関連する話で、PPCは(燃費に)大きな役割を果たしています。PPCは運行ルートを走るために、(FCパワートレインの)制御を常に最適に設定するからです」
GenH2は、前述どおりスタート時に80kgの液体水素を積みこんでいたが、1047kmを走行して、そのうちの70kgを消費した。日本でおなじみのリッター当たり燃費風にいえば、液体水素1kg当たり14.2kmとなる。残りは10kgなので、もしかしたら1200km近くまで走れた可能性もあるが、今回はここまでだ。
ダイムラーでは、2027年にGenH2の実用化を目指しており、今回のレコード・ランは、そこへ至る開発計画のマイルストーンに位置づけられるほど、重要視していたイベントだった。1000kmをクリアした時点で成功である。
ドイツでFCVが普及するには、少なくとも同国内での水素供給インフラの整備、水素供給元の確保(ドイツでは全量輸入する方針という)、そして現実的な流通価格も不可欠で、もちろん政府や関係業界が整備に取り組んでいるところだが、大型商用車技術についていえば、脱炭素と長距離トラック輸送の両立へと一歩近づいたことは確実だろう。
【画像ギャラリー】近未来の長距離トラック輸送の礎になる!? メルセデス・ベンツGenH2トラックをチェック(15枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方