近い将来の大型トラック試作車「メルセデス・ベンツGenH2トラック」が公道1000kmを水素無補給で走破!! 脱炭素・長距離輸送へ1歩前進

世界で最も進んだ大型FCトラック

昨秋ハノーバーでのGenH2公道走行に同乗した際に撮影。この車両は水素ガス仕様車だが、タンクや燃料供給系以外はレコード・ラン仕様車とほぼ同じ。手前のノートPCには、FCパワートレインのリアルタイム状態が表示され、その「運用戦略」に則った制御の一端がみてとれる
昨秋ハノーバーでのGenH2公道走行に同乗した際に撮影。この車両は水素ガス仕様車だが、タンクや燃料供給系以外はレコード・ラン仕様車とほぼ同じ。手前のノートPCには、FCパワートレインのリアルタイム状態が表示され、その「運用戦略」に則った制御の一端がみてとれる

 そして、大型FCトラックは欧米日中印で開発が進められているが、現時点で明らかになっている限り、GenH2はその中でも最も先進的な大型FCトラックである。

 まず、FCVの中核となる燃料電池(FC)とは、水素と酸素を化学反応させて発電する装置であるが、GenH2では、ダイムラーとボルボ・トラックスの合弁FCメーカー・セルセントリック社が開発した、出力150kWの大型トラック用FCシステムを2基搭載する。耐久寿命の2万5000時間は、依然ディーゼルエンジンに及ばないものの、いまのところ最も耐久性の高い自動車用FCといえるはずだ。

 そのFCシステムを含めたパワートレイン・システムの制御も注目に値する。それは、高電圧バッテリーのSOC(充電率)を一定に保ちながら、FCで起こした電力を、バッテリーへ蓄電したり、直接eアクスルへ供給したり、バッテリーの電力と合わせて高出力を発生させたり、SOCが高い状況や、回生が得られる時にはFCの発電自体を休止させたり……という風に、常時頻繁にシステムの作動をコントロールしているからである。

 このきめ細やかなパワートレイン・システムの制御は、水素消費量の最適化と高電圧バッテリーの長寿命化を狙ったものだが、さらに、GPSリアルタイム位置情報と車載3D地図情報から、進行方向の先にある道路(勾配)を通行した際の電力収支を予測した上で、最適な電力供給マネジメントを行なうことまで含まれている。こちらはディーゼル車と同じく「PPC(プレディクティブ・パワートレイン・コントロール)」と呼ばれている。

 実際にGenH2に乗ると、スムーズで静粛なFCVの走りとは裏腹に、瞬間瞬間で電力供給プロセスが変化しており、その緻密にしてダイナミックな制御ぶりをディスプレイ越しに見ることができる。その様子は感嘆に値するといっても過言ではないほどだ。

GenH2が2基搭載するセルセントリック社製の大型トラック専用FCシステム。同社はもともとダイムラーグループのFC開発・製造子会社だったが、2021年にダイムラーとボルボ・トラックスの合弁企業へ改組、両社へFCシステムを供給することになった。ダイムラーとボルボは、同一システムを用いながらFCV技術を競うわけである
GenH2が2基搭載するセルセントリック社製の大型トラック専用FCシステム。同社はもともとダイムラーグループのFC開発・製造子会社だったが、2021年にダイムラーとボルボ・トラックスの合弁企業へ改組、両社へFCシステムを供給することになった。ダイムラーとボルボは、同一システムを用いながらFCV技術を競うわけである

ハイドロジェン・レコード・ラン

ヴェルト・アム・ラインにあるダイムラートラック・カスタマーセンターでの出発式。スタートフラッグを持つのはラインラント・プファルツ州のペトラ・ディック=ヴァルター州務長官、向かって右はダイムラーでトラック製品開発の責任者を務めるライナー・ミューラー・フィンケルダイ氏
ヴェルト・アム・ラインにあるダイムラートラック・カスタマーセンターでの出発式。スタートフラッグを持つのはラインラント・プファルツ州のペトラ・ディック=ヴァルター州務長官、向かって右はダイムラーでトラック製品開発の責任者を務めるライナー・ミューラー・フィンケルダイ氏

 さて、そのGenH2による公道満タン1000km走行テスト「ハイドロジェン・レコード・ラン」は、ドイツ南西部の町、ヴェルト・アム・ラインを9月25日に出発、アウトバーンや一般道を乗り継ぎつつ数か所に立ち寄りながら、北東部の首都ベルリン、その中心部へ向かうというルートで行なわれた。ゴールにベルリンが選ばれたのは、GenH2がデビューを飾った場だからである。

 サイド左右に1個ずつの真空断熱燃料タンクには、エア・リキード社がバイオメタンを熱分解して製造した水素が、マイナス253度という極低温を保ったまま、重量換算で計80kgが充填された。その上で、途中で補給が行なわれないよう第三者認証機関・TUVラインラント*が、国内外の専門メディアが見守るなか、水素タンクと燃料供給系を封印していった。
*注:TUVのUは本来はウムラウト(変母音記号)が付く
 
 さらにGenH2は空荷ではない。カラーリングこそ特別だが、よくあるシングルタイヤ3軸エアサスのドライバン型セミトレーラ(空気抵抗低減パーツ付き)を牽引し、その荷台には25トンの積荷を載せて、連結総重量(GCW)を40トンとした。欧州でポピュラーな運行形態を再現しているわけだ。

 計6人のドライバーが交代で運転したGenH2は、翌26日の午前11時ごろ、ブランデンブルク門にほど近いオットーボック・サイエンスセンターへゴールした。総走行距離は1047kmと発表され、当初からの開発目標をみごとに達成した。到着したGenH2の封印を確認したTUVは、その場で記録認定証を発行した。

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