発注元の「優越的地位の濫用」許すまじ! トラック業界の窮地に強面の公正取引委員会が動き出した!

円滑化施策パッケージに基づく緊急調査

 2021年12月27日、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化会議」が開催された。出席者は岸田総理のほか、国土交通大臣、公正取引委員会委員長、そして経団連・経済同友会・日本商工会議所など経済団体のトップなど。事業者団体から全ト協の坂本会長も出席した。

 同日、関係省庁において転嫁円滑化のための施策パッケージが取りまとめられ、中小企業等が労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できるように政府横断的に取り組むとされた。

 これを受けて公正取引委員会・中小企業庁は関係省庁と連携を図りつつ体制の強化を行ない、2022年1月に下請法を改正、同年2月にはエネルギー価格の上昇分を取引価格に反映させないことは優越的地位の濫用に当たるおそれがあることを明確化した。

 さらに、エネルギーコスト上昇分の転嫁拒否が発生していると疑われる22業種について、実態を把握するための緊急調査を実施した。

 6月に受注者側の約8万社に対して書面調査を行ない、取引価格引上げ要請の有無にかかわらず取引価格が据え置かれており、事業への影響が大きい発注者の回答を求めた。その結果、受注者から名前の挙がった発注者が4573社あった。

 この4573社に、関係省庁・団体から情報提供のあった発注者を加えた合計3万社に対して書面調査を実施し、価格転嫁状況について回答を求めた。

 これらの調査を踏まえて、2022年7月から12月にかけて任意の立入調査(事件審査で行なう独禁法第47条に基づく立入検査とは異なる)を306件実施し、緊急調査の結果を公表した。

 なお運送業でいうと、発注者=荷主、受注者=運送会社という取引形態を想像されるかもしれないが、多重下請けの多い業界であり、大手運送会社が元請(発注者)として中小運送会社に仕事を出す形態も一般化している。

 実際に緊急調査を受けて社名が公表された発注者13社の内、約半分は運送会社であり、「注意喚起文書」を送付された4030社で最も多い業種も「道路貨物運送業」であった。

 元請けとなる大手運送会社と下請けの中小運送会社のパワーバランスという、運送業界内部の構造改革の推進も、荷主対策とともに必要になるということが、調査を通じて浮き彫りになったと言えそうだ。

発注元の「優越的地位の濫用」許すまじ! トラック業界の窮地に強面の公正取引委員会が動き出した!
発注者の立場で価格転嫁を受け入れている割合。道路貨物運送業が最も低く、全業種で唯一の過半数割れ

「買いたたき」の明確化と実際の事例

 公正取引委員会が「優越的地位の濫用」に当たる恐れがあることを明確化し、緊急調査による実態把握の対象となったのは次の2点で、要点としては「価格交渉の協議には応じる」「転嫁を拒否するならその理由を伝える」ということになる。

1.労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

2.労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

 立入調査で問題につながる恐れがあるとされた事例も公表されているので、以下にいくつか紹介する。

・顧客への運送を運送業者に委託していた塗料等製造業者B社は、一部の運送業者との取引において、取引価格引上げの要請がなかったため、数年間、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇分の取引価格への反映の必要性について価格交渉の場において協議することなく、取引価格を据え置いていた

・道路貨物運送業者F社は、荷主から受託した運送業務の一部を他の運送業者に委託しており、エネルギーコストの高騰を受けて燃料サーチャージ制度を導入している。当該運送業者との取引において、労務費等のエネルギーコスト以外のコスト上昇分の取引価格への反映の必要性については、価格交渉の場において協議せず、取引価格に反映していなかった

・道路貨物運送業者G社は、荷主から受託した運送業務の一部を他の運送業者に委託しており、一部の運送業者からエネルギーコストの高騰を理由として取引価格引上げを要請されたものの、特段の検討をすることなく取引価格を据え置き、また、取引価格を引き上げない理由を書面、電子メール等で回答していなかった

 いっぽうで受注側の運送会社の中には、「運送業務を元請の運送業者から受託しているところ、発注者側書面調査の実施後に、発注者から受注した運送業務について遡って取引価格を引き上げ、差額を支払う旨の連絡がきた」という声もあった。

 こうした反応から、「買いたたき」に当たるとして明確化された行為について、発注者側に周知されていない現状も伺える。ちなみに個別調査によると、前掲の「1」の行為のほうが「2」の行為より多く確認できたそうだ。

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