ダイムラー・トラックは「バッテリーEV」と「自動運転」を組み合わせた、同社史上初めてのトラックを公開した。フレイトライナー「eカスケイディア」自動運転技術デモンストレーターだ。
BEVのeカスケイディアは2022年に量産化されているが、「レベル4」相当の大型トラック自動運転技術は研究・開発段階にある。このトラックも開発プロジェクトの一部とはいえ、将来的に自動運転システムがモジュール式のプラットフォームに進化すれば、駆動系(ディーゼル/BEV/燃料電池など)に関わらず様々な用途に応用可能なものとなる可能性がある。
ダイムラー・トラックの目標は、運送業界の課題に対処するため、顧客のビジネスや輸送用途に最も適した車両の選択肢を用意することだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
ダイムラー初の「バッテリーEV+自動運転」
ダイムラー・トラックには明確な目標がある。持続可能な輸送に向けた変革をリードし、明日の課題に対処するということだ。そのビジョンの実現のために、現在、最も有望視されているのが「自動運転」と「バッテリーEV(BEV)」だ。
2024年5月8日、その2つの技術を1つの車両に統合した、同社として初めての車両が公開された。自動運転機能を備えた「eカスケイディア」技術デモンストレーターだ。
ダイムラー傘下で、長距離輸送用大型トラックでは北米最大手の商用車メーカー、フレイトライナー製の量産型BEV「eカスケイディア」をベースにしており、トルク・ロボティクスのソフトウェアと最新のセンサー及びコンピューターを搭載する。
同車を使ってSAEレベル4自動運転に向けた試験を行なうようだ。
なお、トルク・ロボティクスは仮想ドライバー(自動運転システム)技術を開発しているダイムラーの独立子会社だ。
現状では研究・エンジニアリング用の車両だが、ディーゼル、BEV、水素燃料電池などトラックの動力に依存しない自動運転システムは、様々な輸送用途に柔軟に対応できるモジュール式の拡張可能なプラットフォームに進化する可能性がある。
ダイムラー・トラック・ノース・アメリカ(DTNA)の社長兼CEOのジョン・オリアリー氏は次のようにコメントしている。
「ゼロ・エミッションと自動運転という2つの技術を1つの商品に組み込むことで、お客様が将来直面するであろう課題に対するソリューションを試験しています。
私たちは将来に渡って世界を動かし続けるために、お客様にとってベストな選択肢を提供したいと考えています。そのためには多くの洞察と試行錯誤が必要です。実験を繰り返し、学び、改善し、お客様と共に創ることで初めて正しいソリューションに至るのです。このトラックは、そうした開発プロセスがまさに始まることを表しています」。
また、ダイムラー・トラックでグローバル自動運転技術グループを担当するジョアンナ・バトラー氏は次のように付け加えた。
「トルク社との協力により、米国で2027年に自動運転トラックを発売するという目標は、大きく進展しました。最初の市場ローンチは、従来型の動力(ディーゼル車)をターゲットにしていますが、その先も見据えています。
自動運転BEVトラックの開発・試験・最適化には反復型のアプローチを採用し、お客様と協力して最も有望なユースケースを模索しています」。
両者の長所を合わせた技術仕様
フレイトライナーのeカスケイディアは、北米の重量車区分で最も重い「クラス8」に相当するBEV大型トラクタで、効率的なゼロ・エミッション車への移行を求める事業者に優れた生産性を提供するべく設計された。2022年に量産を開始しており、米国の運送会社による累計走行距離は600万マイル(約1000万km)に上るという。
複数のバッテリー/駆動軸オプションを用意し、航続距離はバッテリー構成にもよるが、公称値で155/220/230マイル(250~370km)だ。パワートレーンはデトロイト製(同社もダイムラーグループ)で、もちろん先進安全装備を備えている。
自動運転システムの開発ではディーゼル版のカスケイディアにセンサー一式と演算用のコンピューターを搭載するが、今回、初めてこれをパッケージ化し、BEV版のeカスケイディアに搭載した。
コンピューター用の冷却系を確保するため、DTNAの技術チームは先進的な空冷コンセプトを開発し、運転席と助手席の間に効率的に配置した。ソフトウェアも最適化されており、自動運転システムに制御用インターフェースと車両情報のフィードバックを提供する。
センサーバーのカバーは専用品で、カメラ、ライダー、レーダーを納めている。カバーは空力特性を向上すると同時に、センサー類へのダメージや汚れを防ぐ役割がある。
機器への電力供給のために新たに12ボルトのバッテリーを4つ追加した。これにより駆動系とは独立して作動し、安全性・効率性が向上した。
こうした技術デモを通じてダイムラーが考える「未来の輸送」のユースケースを垣間見ることができる。例えば、BEVインフラを活用した短距離・多頻度の輸送などだ。
現在、自動運転トラックの目標となっているのはハブ・ツー・ハブ輸送で、米国では大規模物流施設(ハブ)間の高速道路を使ったトラック輸送の自動化がテストされているが、充電インフラと自動倉庫を組み合わせ、充電と荷役を同時に行なうなど、自動運転とゼロ・エミッションの相乗効果を検証することで、運送業の効率は更に高めることができる。
また、水素を動力とするトラックの活用も考えられており、動力に依存しない自動運転プラットフォームの開発は、輸送の未来に良い影響を与えるだろう。トラックは生産財(生産のための道具)なので、顧客の利益を最大化することが最も重要な役割だ。
自動運転デモンストレーターは、製品版のeカスケイディアとできるだけ共通の設計としている。これにより開発プロセスを合理化するとともに、保守性を向上している。
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