燃料電池トラックの規制緩和を検討!? 水素モビリティの「三すくみ」打破へ経済産業省が中間とりまとめ

改定された水素基本戦略

 先述の通り、水素基本戦略が2023年6月に改定され、「『技術で勝ってビジネスでも勝つ』となるよう、早期の量産化・産業化を図る」「国内市場に閉じず、国内外の市場獲得を目指す」などの産業戦略が掲げられた。

 これを踏まえて政府は「FCVにおける重要な部品である燃料電池への取組」「FCV国内普及に向けた取組」「水素ステーションへの取組」という3つの方針のもと、次のような論点を挙げている。

●世界を視野に入れた戦略の構築(燃料電池)
●商用車に対する支援の重点化(普及)
●8トン超トラックの転換目標、充填インフラ目標の設定(普及)
●大規模水素ステーションへの税制優遇等(ステーション)

 いっぽう定量目標としては、水素の導入量を現在の200万トンから、2030年に300万トン、2040年に1200万トン、2050年に2000万トンとした。コスト目標は現在の1Nm3(ノルマルリューベ)当たり100円から、2030年に30円、2050年に20円以下を目指す。長期的にみると化石燃料と同等のコストを実現する。

 水素を製造する水電解装置は、日本企業が2030年までに国内外で15GW程度を導入するという目標を設定した。

 国内市場では需給の両面からの措置を加速するほか、世界市場では欧米の初期需要を獲得し、アジア市場は将来を見据えて先行投資を行なうとした。

水素とFCVの課題とは?

燃料電池トラックの規制緩和を検討!? 水素モビリティの「三すくみ」打破へ経済産業省が中間とりまとめ
高額な車両価格や水素タンク設置による積載量減少がFC商用車の課題となっている(中間とりまとめより)

 燃料電池市場は2030年度に約5兆円(現在は3278億円)規模へと急激な拡大が見込まれている(富士経済「2020年版燃料電池関連技術・市場の将来展望」)。

 自動車メーカーとしては、たとえばトヨタは2030年に10万台の外販オファーがあり、その大半が商用車だと発表している。トヨタは他に、次世代燃料電池セルを2026年に実用化すること、大型商用車用の水素タンクの規格化なども目指している。

 いっぽう、乗用車向けに燃料電池を開発するホンダは、いすゞ自動車をパートナーとして乗用車の技術を商用車や定置電源、建設機械などへ展開するとしており、2030年には年間で60000基の燃料電池システムの販売を目指している。

 日本のFC技術は現状では優位に立つものの、近年は中国の特許出願数が突出する。技術的優位を確保しつつ、産業の自立を図るためには、乗用車から商用車へ、さらに建機、農機、鉄道、船舶、航空機などモビリティ全体への広がりと、海外市場での販売拡大が必要となっている。

 国内の水素は現状では石油製油所などで製造されているが、大部分は自家消費され、また、製造工程においてCO2を排出しない「グリーン水素」が非常に少ないという課題もある。

 自動車メーカーとしては、需要が不透明であることが開発・製造に向けたリスクとなっているほか、現行の法規制では水素タンクの搭載により積載量が減少するため、開発を促進するには規制の見直しも求められる。水素の供給見通し、車両コストと燃料コストの高さなどもFC商用車の課題だ。

 現状では水素ステーションはコスト高により事業性確保が困難であるため、需要の把握が重要になる。また、乗用車用と同じ規格では大型FCトラックへの水素充填に時間がかかり、BEVに対するメリットを見出しづらい。

水素モビリティの見通しを試算

 FCVは商用車(トラック・バス・タクシー)や社用車として潜在性が高く、具体的には走行距離の長い幹線輸送の大型トラック、稼働率の高いコンビニ配送、電気消費量の大きい小型~中型の冷蔵冷凍車やミキサー車などの架装ではFCトラックが有利とされる。また走行距離が決まっている路線バスなども有望だ。

 そこで中間とりまとめでは「三すくみ」の原因となっている不明瞭さを払拭するため車両開発・FCVの需要・水素供給などの見通しを試算した。まずFC商用車の開発・供給の見通しとしては次のようなものだ。

●FC小型トラック:2023年から限定導入。2025年に次期モデル、2029年に次々期モデルへ(モデルチェンジは販売価格低下のため)。2030年に累計1.2~2.2万台
●FC大型トラック:2025年から先行導入。2029年にモデルチェンジ。2030年までに累計5000台
●FCバス:路線バスで先行導入。2025年にモデルチェンジし、次期モデルで年間200台を供給

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車両の開発・供給台数と導入価格の見通し(中間とりまとめより)

 いっぽう運送会社側の需要についてだが、FCVの導入計画がある事業者は少ない。協議会に参加する大手6社の合計で、小型FCVとBEVを合わせて5700台、大型FCV・BEVが60台、FCバスが200台程度の導入意欲となっており、需要の拡大が重要だ。

 FCVの導入に積極的でない理由として、参加企業からは次のような意見があった。

●走行距離などBEVの車両スペックが向上すればBEVを導入する
●燃料や車両コストがディーゼル車並みであることが導入の前提になる
●燃料が(グリーン水素などの)低炭素水素であること、低床モデルなど車両タイプが増えることが必要

 水素の店頭価格とガソリンの販売価格は、燃費で比較すると既にコストパリティ(コストが同等となる水準)に近い。ただし水素は供給コストが高いため水素ステーションは赤字となっている。また、ディーゼル燃料(軽油)とのコストパリティ達成のためには、さらに半分近くまで価格を圧縮する必要がある。

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水素のコスト目標と既存燃料とのパリティ価格(中間とりまとめより)

 水素供給に関しては他に「充填時間を短くするほど供給コストが上がる」「一部の時間帯に充填が集中するとピーク対応が必要となりコストが上昇」といった課題もある。

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