規制緩和という大義のもと、トラック業界の「多重下請構造」は正すことのできない必要悪として長年放置されてきた。ただ、2025年6月4日に「トラック新法」が成立し従来の規制緩和方針が転換され、政府の「トラック運送業における多重下請構造検討会」もとりまとめ案を公開している。
トラックドライバーの処遇を改善し、物流の担い手を確保することは日本のみならず世界に共通する課題だ。
諸外国がどう多重取引を防いでいるのかと合わせて、前編に続いて検討会のとりまとめ案より、その実態と対策の方向性をお伝えします。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
図表/トラック運送業における多重下請構造検討会
「多重下請構造検討会」による調査のまとめ
前編でお伝えした通り、政府の「トラック運送業における多重下請構造検討会」が、とりまとめ案を公開している。トラック運送事業者や利用運送事業者などへのアンケートとヒアリング調査をまとめると次のようになる。
運送会社が自ら請け負った運送依頼を他社に再委託する行為は、一般的には繁忙期の需要に対応するための「需給調整」と説明される。しかし運送業界では需給の調整を超えて多重取引が恒常化している。
その根底には、荷主や元請事業者との関係を維持するための商慣行や、委託先に元値を知らせない「情報の非対称」など業界の暗黙のルールがある。いっぽうで、請負次数が多くなると輸送の質が下がり、品質を担保するために元請事業者が委託を制限することは、商慣行の是正に効果があることもわかった。
本来の「利用運送」は物流のワンストップ化など付加価値の提供が期待された運送契約であり、取次のみを行なう専業水屋とは異なる業態なのだが、現状ではその責任を果たしているとは言い難く、慣例として運賃の5~10%を中抜きしているに過ぎない。
実運送を行なっているトラック運送事業者が、自らも再委託を行なう利用運送事業者でもあるため、当事者が両者の違いを明確に意識することなく、あいまいな運用を行なっている。このことが、業界としての自主的な対策を難しくしている。
従来、多重下請の原因と指摘されてきた専業水屋は、ICT技術を活用したマッチングサービスの登場で姿を消しつつある。マッチングサービスは商慣行を変え、多重取引構造を抑制するポンテンシャルを秘めているものの、現状ではスポットでの利用に留まっており、複雑な運送事業者のニーズに応えきれていない。
トラック新法の成立を受けて今後の方向性は?
今回の実態調査では、荷主・元請事業者との力関係で運送依頼を断れないことや、元請からの「再委託禁止」が守られていることなどから、「川上」を起点とした多重取引の抑制は有効と考えられ、元請事業者が業界の健全化のために中心的な役割を果たすことが期待される。
全日本トラック協会は「下請けは2次まで」を提言しており、先に成立したトラック新法(「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」及び「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」)では、再委託の回数を2回以内に制限するよう努力義務が定められた。
また、2024年の物流法の改正で契約の書面化や実運送体制管理簿の作成などが義務化された。
多重取引を是正する目的はドライバーの待遇改善であって、荷主から実運送までの間に介在する全ての事業者による手数料の中抜きが問題である。その意味では「トラック運送事業者」か「利用運送事業者」かという分類は問題ではなく、「第一種/第二種貨物利用運送事業者」といった法令上のカテゴリーを再整理することについても検討が必要だ。
手数料や元値を明示しないなど業界の暗黙のルールは、実運送のコストを認識し、適正な運賃を収受するための妨げになる。利用運送事業者は、自身が提供している付加価値の意義と手数料相当額の「見える化」を進めなければならない。
現状では明確な付加価値を提供せず仲介・取次のみを行なう事業者が商慣行として手数料をピンハネしており、登録事業者の実態を踏まえて規制を検討すべきだ。
いっぽうの「川下」においても、条件の悪い仕事を安価で受ける事業者は遵法意識が低く、速やかに市場から退出させる必要がある。
こうした悪質な事業者は適正価格より安く仕事を受け(運賃ダンピング)、過積載や点呼・整備・改善基準告示の違反など法令違反により利益を上げているわけで、安全確保のためにも国による監査等、チェック機能の強化が求められる。
トラック新法では5年ごとの事業許可更新制が導入され、適正原価を継続して下回っている場合、事業許可が更新されないため、運賃ダンピングを行なう事業者の退出を促進する効果が期待されている。
有償でのトラック運送には緑ナンバーが必要だが、自家用の白ナンバーで請け負う違法な「白トラ」が横行しては規制の効果がないので、新法では違法白トラ行為の禁止が明示された(もともと合法ではないが……)。
実際に検挙された事例では、荷主等も白トラ行為に関与・認識していたケースが多く、荷主にも罰則を課すこととしたほか、国交大臣による要請・勧告ができる規定が新設され、白トラでは発注者側の取り締まりが強化された。
利用運送が果たしていたバッファー(繁閑の需給調整)機能は、今後はマッチングサービスが担っていくことが期待される。そのためには一定規模以上の貨物と車両の双方を年間を通して取り込む必要があり、適正な競争と効率的なマッチングのためのデータの標準化も重要となる。
2024年問題への対応として実施された一連の制度改正は、トラックドライバーの待遇を改善し、物流の担い手を継続的に確保することが目的だった。
長年にわたって続けられてきた商慣行を正すことはトラック業界にも痛みを伴う。しかし実態に目をつぶっていても状況は改善しない。検討会のとりまとめは「今こそ、官民を挙げて健全な競争環境を実現するときである」と結んでいる。
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