ロシアによるウクライナ侵攻でバイオ燃料に注目が集まる
ボルボ・トラックスは輸送のゼロ・エミッションを実現するための戦略的ロードマップで「3つの道」を構想している。一つはバッテリー電気自動車(BEV)、一つは燃料電池車(FCEV)、そして最後の一つが再生可能燃料による内燃エンジンだ。
この再生可能燃料として想定するものの一つがバイオガスで、天然ガスエンジントラックのラインナップ強化は、こうした戦略に合致する。
なお、ボルボが再生可能燃料としてほかに注目しているのは、HVO燃料(水素化植物油=食用油などの油脂と水素を反応させることで軽油に近い性状とした燃料で、従来のディーゼルエンジンで燃焼できる)や、グリーン水素(再生可能エネルギーで作った水素)を燃料とする水素エンジンなどだ。
再生可能燃料という分野でいくつもの技術が混在している状況について、天然ガス以外に、燃料電池や水素エンジンも担当するバーグストランド氏は次のように述べている。
「いくつもの技術的なソリューションが必要となります。なぜならエネルギーや燃料インフラの入手可能性は国や地域によって大きく異なるからです。また、特に商用車では、それぞれの輸送分野ごとに要求が異なるという事情もあります」。(同氏)
そんな中、欧州ではバイオLNGの製造が加速しており、化石燃料であるLNGからバイオLNGへの切り替えが急速に進むとみられている。
その背景にあるのがロシアによるウクライナへの侵攻だ。欧州委員会はロシア産化石燃料への依存からの脱却を目指し「リパワーEU」と称するエネルギー移行計画を推進している。焦点の一つはEU域内での様々な種類のエネルギー生産を大幅に増やすことだ。
特にCO2削減との兼ね合いもあるバイオガスについては、2030年までに年間の生産量を今の10倍まで増やす予定(欧州バイオガス協会)となっており、同分野は早くも成長フェーズに入っている。
こうしたエネルギー価格の高騰や急激なインフレは世界共通の課題であり、欧州以外でもバイオガスの可能性に注目が集まっている。たとえばアメリカでは、計画中のプロジェクトの合計だけで、2025年のバイオ燃料の生産量は2022年の2.3倍になるという見通しを当局が発表している。
ボルボの天然ガスエンジンと液化バイオガス
ボルボの新型天然ガストラックの概要は次の通りだ。
・モデル:「FH」「FM」「FMX」
・馬力帯: 420 / 460 / 500 hp
・燃料: バイオLNG(液化バイオガス)/ LNG
(ガスへの点火のためにごく少量の軽油かHVOが必要)
・航続距離:最大1000km
エンジン本体は、高効率のディーゼルエンジンがベースとなっており、運転操作性などはディーゼル車と同等。これにより重量物輸送や長距離輸送も実現可能なトラックとなっている。
新型の天然ガスエンジンは排ガス基準としてユーロVIステップE規制に対応する(燃費効率の4%向上はステップD対応エンジンとの比較)。
エンジン本体ではフリクション低減のためにインジェクターとピストンは新型に変わっている。またターボチャージャー、オイルポンプ、クランクケースブリーザー(オイルキャッチタンク)なども改良されている。
天然ガスエンジンは液化バイオガス(LBG、あるいはバイオLNGとも呼ばれる)を燃料とした場合にCO2の削減効果が大きくなるため、ボルボとしてもこの組み合わせを訴求している。
そもそも液化バイオガスは、バイオマスから製造するメタン(バイオメタン)を液化した再生可能燃料のことだ。バイオメタンは有機廃棄物の分解により生じるもので、下水処理場の汚泥、生ごみ、たい肥(家畜の糞)、工場等で利用されない副産物・副生成物などを原料に製造する。
主に海底のガス田から採掘する天然ガスは、メタンガスを主成分とする化石燃料であり、それを液化したものがLNGだ。
バイオガスを液化する方法はLNGと変わらず(マイナス162℃に冷却)、液化することで容積が小さくなるため、圧縮天然ガス(CNG)より多くの量を車両に搭載でき、長い航続距離を確保できるようになる。
欧州のリパワーEU計画ではバイオガスの生産量を、2030年までに350億立方メートル(現在の10倍)に増やすとしている。来年(2024年)までに78か所のバイオLNGプラントが整備される予定で、国別ではドイツとイタリア、そしてオランダがバイオLNGをリードしている。
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