「減トン」と中古市場もコストに影響
トラックは「運んでなんぼ」の世界なので、バッテリー重量による減トンの影響は極めて大きい。ATRIのレポートは、減トンの影響を回避できる実用的なBEVトラックの航続距離は現状では250マイル(約400km)までと推定した。
米国の統計データによると1日の走行距離が250マイル以内の大型車は23%に過ぎず、大部分の運送会社はBEVの導入に際して運行プロセス自体を見直す必要がある(これは米国のデータで、日本の場合、走行距離はもう少し短い)。
バッテリー重量を相殺するために、欧米ではBEVの総重量を緩和する「エクストラ・ウェイト」が導入されている。米国の場合、総重量8万ポンド(約36トン)のクラス8トラックに対して2000ポンド(約900kg)だ。欧州(最大4トン)に比べると控えめだ(日本には導入されていない)。
とはいえ、北米市場で市販されている大型トラックで比較すると、BEV版は航続距離が短いにも関わらずディーゼル版より約4000ポンド重く、仮に500マイルの航続距離を実現するには13800ポンド重くなる計算だ。エクストラ・ウェイトを考慮してもトラック1台が運べる荷物の量は5トン以上減ってしまう。
重量増を7000ポンドに抑えたとしても、米国の長距離貨物の34.3%が総重量オーバーとなってしまうため、輸送力確保のためにトラックの数自体を増やさなければならない。世界的にドライバー不足が課題となるなか増車は容易ではなく、一台当たりのCO2排出を削減しても台数が増えるなら無意味だ。
また、バッテリーは繰り返し充電により劣化するため、低年式車で航続距離が短くなり、中古トラック市場が形成されにくい点も商用車には厳しい。
こうした実用上の問題点は、従来のディーゼルエンジンでそのまま使用できるドロップイン燃料であるRDには一切影響せず、両者の「コスパ」に大きな差が付く要因となった。
BEVとICE-RDの経済性の比較
生産活動に使う「生産財」であるトラックにとってコストは何よりも重要で、基本的に「消費財」である乗用車とは根本的に異なる。中でもトラックを運行する上で最も重要なのが、車両コストと燃料コストとされる。
RDを活用することの最大の利点は、既存のディーゼル車でそのまま利用できるドロップインという特性にある。車両やインフラに関して追加のコスト負担が発生しないため、CO2削減に向けたコスト効率が非常に高いのだ。
小規模な事業者にとってこれは特に重要で、米国でも日本でも運送業界の大部分を占める中小事業者は、BEV化によるコスト増を受け入れるほど体力がない。できる限り負担の少ない方法を模索しないと、脱炭素に向けた運送業界の取組はいずれ頭打ちになるだろう。
米国エネルギー庁(DOE)の調査によると、米国の2022年の大型トラックの新車価格は、ICEトラックが16万ドル(2024年6月時点の為替レートで2490万円)、BEVトラックはおよそ3倍の45万7000ドル(同7110万円)だった。
同年の米国内のディーゼル大型トラックの販売台数は245,164台で、トラック業界の新車購入費は約407億ドルだ。全車をBEVとした場合、追加で755億ドルの費用負担が生じる計算だ。メンテナンスコストはICEより低くなるが、車両コストを賄いきれず、総保有コストは13~26%高くなるという。
もう一つ重要なのが燃料コストだが、将来のエネルギー価格を予測することは極めて困難で、電気とRDのどちらが有利か断言することはできない。
参考までに米国の軽油価格は、45%が原油価格、25%が精製コスト、残りが税と輸送費とされる(米国は産油国であり、日本とは異なる点はもちろん留意する必要がある)。
電力価格は地域の公益事業委員会がそれぞれのルールに基づいて決定しており、地域によって大きな価格差があるが、近年はインフレやデータセンターでの電力需要などで電気料金が高騰している。
いっぽう、RDの価格は原材料となるコモディティ価格に依存する。ただ、カリフォルニア州のように軽油価格をベンチマークに小売価格を調整しているケースもあり、また、食品と競合するバイオ燃料(第1世代RD)を「再生可能」と認めない地域もあるので、政策の影響が大きい。
廃棄物等から作る第2世代RDは、原材料の供給量が大きく変動しないという特徴がある。価格が安定するいっぽう、需要が増えても供給を増やせないため、原材料となるバイオマスの多様性が重要となる。もちろん、藻類やシアノバクテリアから作る次世代バイオ燃料(第3世代RD)の研究・開発も進める必要がある。
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