元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.97

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追想記(遥かなる想い象潟 其の二)
西施は、古代中国の春秋戦国時代に越の国に生まれた人で、父親は薪売りで、田舎娘なのだそうです。ですが、子供のころから美人の誉れが高く、一緒に呉の夫差に献上された「鄭旦」と共に、二大美人だったと言われています。当時(紀元前5~6世紀)に、田舎娘が付けるお化粧などは想像できず、素顔の美人の誉れですから、かなりの美人だったと想像できます。
その美しさは、川で洗濯をしていると西施を見た魚が沈んだと言われるくらいのもので、それで「沈魚美人」と呼ばれるようになったとされていますが、これは、中国によくみられる誇大表現であることは間違いありません。また、西施は胸の痛みの持病を持っており、その時の顔を苦痛に歪める表情が、また魅力的だったとされています。それはある意味、か弱き繊細な美人と言えるかもしれません。
もう一人の美人の鄭譚と共に越の王に召し出され、三年間徹底的な宮廷の作法を身に着けさせられます。そして、人身御供として呉の夫差の元に送られます。そのことを進言したのが越王「勾践」に軍師として仕えていた「范蠡(はんれい)」と言われていますが、定かではありません。 
もちろん、その使命は呉王「夫差」を骨抜きにすることだったのですが、これも事実かどうかは判りませんが、結果的にそうなってしまいます。つまり、越の人々からは国に尽くした英雄扱いなのですが、呉の国の人々からは妖女として扱われるのは当然です。
呉が越に滅ぼされた後の西施の行方は、正史には全く登場していません。中国の四大美人(六人の中から四人が選ばれるが、西施と楊貴妃は外れない)の中で、楊貴妃と共に正史に詳しく出ているにも拘らず、その後の消息が不明と言うのは様々な憶測を呼び起こします。
その憶測の中には二つの有力なものがあります。一つは、呉の西施にに恨みを抱く人々から、皮の袋に入れられ長江に沈められた。そして、その後蛤がたくさん採れるようになったのは、西施の舌だからだと……。もう一つは、恋仲だった范蠡が、越の国を出奔する時に連れ去った。
この時の范蠡が越の国を出奔する時の話は有名で、盟友の「文種(ぶんしょう)」に、一緒に越を出ようと勧めた言葉「王の勾践は、苦は共にできるが、楽は共にできない」と、勧めますが、文種は残り、結局は逆族の汚名を着せられ殺されます。余談になりました。
松尾芭蕉が、何故このような西施をこの象潟の句に登場させたのか、また、ねむの木の花を登場させたのか? 何となくわかる気がしてきます。ねむの木の花は、見た目は繊細で、その香りは桃の香りに似ていると言います。つまり、西施の繊細な美しさと、男を惑わす美貌を桃の香りに重ねあわせると……。
象潟が鳥海山の噴火で出来たのが紀元前5世紀頃で、西施が生きた時代とほぼ同時代です。西施の時代のことは芭蕉は知っていたと思われますが、象潟が出来た当時のことは知っていたとは考えにくいです。せいぜい、伝説でその頃というくらい見当はついたのかもしれませんが、現在のように地質学的な事での検証など出来るはずもありません。
しかし、芭蕉が西施と象潟の湖面に浮かぶ、松が生い茂る小島の風景を重ねあわせたのは間違いありません。もう一度、彼の象潟の紹介文の抜粋と句を載せます。
松島は笑ふが如く、象潟は怨むがごとし。寂しさに悲しみをくわへて、地勢魂をなやますに似たり。
象潟や雨に西施がねぶの花
正史から忽然と姿を消した西施を、芭蕉は哀れな末路と受け取っていたのではないかと考えます。そして、この地に西施を自分の世界の中で活かし続けた。哀れな西施の生きる地として、天が与えた美しい象潟が相応しいと芭蕉が思っても不思議はないと結論付けました。
いえ、四大美人の中でも、その筆頭とされる西施こそ、この象潟に相応しいと考えたのかもしれません。
芭蕉の世界の中で、西施は湖面に目をやり、自分の美しさに魚が沈んでいく様子を観ていたのでしょうか。
もちろん、これは私の偏った独りよがりの解釈です。が、芭蕉の中に、ロマンチストの一面を見た思いがします。
その象潟も、芭蕉が訪ねた約百年後に、今度は地震で隆起してしまい、その湖面が姿を消します。西施が小舟を浮かべる湖面が消えたのです。現在は、田んぼの中に松の島が点々と残っているそうです。
 
その象潟に思いを馳せながら、何度国道七号線だけを走り抜けたのかわかりません。
一月のこの時期は、田んぼの白一色の雪の面に、同じように雪を枝に乗せた松島が点々と見えるのでしょうね。秋の稲が実るころは、黄金色の中に松島が浮かんでいるのでしょう。夏の日盛りの中では、緑一色なので松島は目立たないかもしれないですね。
でも、苗を植えて水田に水を張った時、きっと昔の風情が戻るのかもしれません。いつか、その時にはきっと訪れたいと、遥かなる想いを象潟には抱いています。
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