ダカールラリー2024で総合6位という結果を残した日野チームスガワラは3月15日、ラリー活動を支えてきた協賛会社に向け参戦結果報告会を開催した。日野チーム躍進の裏側ではどんなことがあったのか? 参戦結果報告会をレポートします。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集・日野自動車・ASO
総合6位に躍進した2024年大会の概要
日本から唯一トラック部門への参戦を続ける日野自動車は、今年1月5日〜19日にかけサウジアラビアで開催された「ダカールラリー2024」においてトラック部門の46台中6位と大きく躍進し、2018年大会の総合8位以来、5年ぶりとなるシングルフィニッシュを果たした。
また、1991年のダカールラリー(当時パリ・ダカールラリー)初参戦以来更新が続く連続完走記録も33回目となった。
日野チームは、2022大会より充放電速度に優れるリチウムイオンキャパシタ+モーターのハイブリッドシステムを採用したHINO600シリーズ(2020年に初投入)で参戦を続けてきたが、ハイブリッドを含む電動駆動車を対象とする「T5・U」クラスのレギュレーションを現行車で対応することがむずかしいことから、今回、同クラスでの出場を断念。
2024年はハイブリッドシステムを外したHINO600シリーズで挑戦することになった。
しかし、総合出力で約280馬力のパワーダウン(エンジン単体では800馬力)となるものの、重いハイブリッドシステムを外したことで約400kgの軽量化を実現し、あわせて副変速機のローレンジの実用性を高めるために、前後デフの減速比を浅く(小さく)改良。
これがA09C型エンジンの高回転型の出力特性とマッチし、トルコンATのトルク切れのない変速制御とあいまって力強い加速を実現し、上位入賞の原動力となった。
1月6日に行なわれたプロローグランを総合15位でスタートした日野チームは、着実にステップアップを図り、大会最大の山場である1つのステージを2日間かけて走る「48hクロノ」で燃料系の配管が破損し、燃料が漏れガス欠に陥るトラブルが発生したものの、乗員の機転や他の競技車両の助けによりなんとか再スタート、前半戦を総合8位でフィニッシュした。
そして後半戦はミスコースや大きなトラブルもなく粛々と追い上げをみせると、最終日で総合6位にポジションアップを果たした。
ダカールラリー2024を振り返って
今回大会は、46台が出場したトラック部門で完走したのはわずか20台。完走率43%と、厳しい大会であった。こうした状況で結果を残せたのは、出場メンバーの頑張りに加え、安定した走りを支え続けたチーム全体の総合力がもたらした結果といえるだろう。
3月15日に開催されたダカールラリー参戦結果報告会では、所用で席を外したナビゲーターの染宮弘和を除いた12名(総勢13名)のチームメンバーが出席。メンバーとともに、ドライバーとして19回目(ダカールへの参加は26回目)の参戦を迎えた菅原照仁は次のように大会を振り返っている。
「毎年言っていますが、今回もめちゃくちゃ厳しかったです。過去ドライバーとしては19回参戦してきましたけれども、過去一番厳しかったレースでしたし、そういった厳しいレースで6位という結果を残せたことは非常に良かったと思っています。
今回特徴的だったのが、エンプティクオーターという非常に厳しい砂丘があるんですけど、その砂漠を2日間に渡って戦うという『48hクロノ』というコースです。全部で約580km、これが全部砂丘なんですね。
登った砂丘を降りて、ちょこっと平らなところを走ってまた大きな砂丘を登って、これをずっと2日間繰り返す場所があって、ここが非常に厳しくて苦労しました。こういった厳しいコースはサウジアラビアならではのコースです。」
いっぽう、「48hクロノ」で、日野チームは今回最大のピンチを迎えた。
同マラソンステージ初日、294km地点にある2つ目のブレークゾーンに到着した日野チームは走行後の点検で燃料噴射系の戻り管に折損が見つかり、すでに相当量の燃料を失っていることが発覚。2日目は省燃費走行で走り出したが、398km地点の給油ポイントまで残り30kmでガス欠症状によりストップしたのだ。
「ちょうど傾いたところで止まってしまって、ちょっとしたら横転みたいな形だったんですけれども。そんなところで、偏っていた残りの燃料を燃料タンクから抜いて、それをむりやりエンジンに吸わせる対策をしました(乗員メカニック:望月裕司)」
ディーゼル車では、燃料が少ない状態でタンクが傾くなどした際に燃料ポンプが空気を吸ってしまうと、ガス欠症状に陥ってしまう。起伏の険しい場所を走るダカールでは、エア抜きしても再びガス欠となる可能性も高い。そんなピンチを救ってくれたのが同じトラック部門で戦うライバルチームだ。
「彼らはライバルチームなんですけど、実は一回通り過ぎちゃったんですよ。止まらずに行っちゃったんですけど、なんか知らないけど戻ってきてくれて、彼らが燃料をわけてくれて、次のチェックポイントまで行けました。彼らがいなければ大変な状況だったと思いますね。その前にも何台かスルーしていってしまったので、それだけでも何時間もここで立ち往生しちゃった状況です。
結局40リットルもらったのかな。燃料タンクが大きいので、実は燃料は入っていたんですが、傾くと燃料を吸わずにどうしても動けなくなっちゃう状況だったのです。でも、少し多めにもらえたので、そのあとキツい砂丘を走ってきましたが、ガス欠せずに走行できました。(菅原照仁)」
「彼らは燃料をもらっているときに水をもってきてくれたんですよ。飲ませてくれるのかなと思ったら茶色い水で泥水なんですよね。これは体を冷やすためにもってきてくれたもので、背中にジャパっといれてくれたんです、有無をいわさず(笑)。なので燃料まみれになりつつ泥水にもまみれるそんな状況でした。(望月裕司)」
また、今年は2021年以来コロナ禍で休止されていた販売会社メカニックの派遣活動が4年ぶりに再開され、福田剛史(愛知日野自動車)と斎藤明延(栃木日野自動車)が帯同した。2人は次のように大会を振り返っている。
「自分の担当した作業はブレーキ周りをメインでやらせていただきました。どうしても熱害が多いというか、過酷なブレーキの使い方なので、ブレーキキャリパーのダストブーツが溶けちゃうというような状況だったんですね。そこが溶けることによってゴミや砂が入るとか、あと溶けたやつが固まっちゃって、キャリパーピストンに張り付いてしまう状態がよくあって、裏側のどうしても手が入りにくいところの清掃に苦労しました。
ダカールラリーに参加して自分なりに思ったことなんですが、まず諦めない気持ち、今できる最善を尽くす、あと最善を尽くす中でもより良くするために考えることをやめないということを学びました。(斉藤明延)」
「オートマ交換とラジエーター交換、トランスファーのオイル漏れが重なった日がありまして、メカニック的には大変だったんですが、今思うとこの時が一番楽しかったなと思っております。
今回レースに参加して、チームワークがすごく大事ということを学びました。販売会社でのトラックの整備は一人でするものではなくて2人一組だったり、車検とかでしたら4人でやったりしますので、そういうところでチームワークというのはすごく大事かなと思います。レースで得られたチームワークの大事さというのを伝えていきたいと思っています。(福田剛史)」
今大会をいい結果で終えた日野チームスガワラ。気になるのは来年以降の参戦体制だが、ハイブリッドシステムを含めどういった方向で進んでいくのだろうか? 昨年より日野チームスガワラのテクノロジーオフィサーとして就任した脇村誠CTO(最高技術責任者)は、報告会で次のように語っている。
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