ダイムラートラックは自社物流の脱炭素化における新たなマイルストーンとしてメルセデス・ベンツ・トラックスの主力工場となっているドイツのヴェルト工場で、複数の長距離輸送ルートを電動化した。
同社はこれまでも短距離を中心にBEVトラックを導入しており、工場物流の20%が電動化されていたが、新たに長距離の14ルートに14台の「eアクトロス600」が導入され、自社トラックによる、自社物流の脱炭素化を進める。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
長距離ルートの脱炭素化にベンツのフラッグシップEVトラック
ダイムラー・トラックは従来からのコミットメントの通り、CO2を出さない輸送の実現に向けて変革を続けている。自社のサプライチェーン(供給網)においても、これまでの地場輸送ルートに加えて、新たに長距離輸送ルートの電動化を開始したことを2025年7月14日に発表した。
使用するのは、もちろんメルセデス・ベンツの最新型バッテリーEV(BEV)大型トラック「eアクトロス600」で、14社の物流パートナーが14台の「eアクトロス600」を活用してドイツと欧州全土から部品やコンポーネントを工場に運ぶ。
ダイムラーは、大型トラックの組み立てを行なっている主力のヴェルト工場の他、ガッゲナウ、カッセル、マンハイムの各工場への輸送を完全電動化するインバウンド物流の電動化プロジェクトを推進しているが、電動化が困難とされてきた長距離輸送においても工場物流のCO2フリー化が実現可能であることを14台のeアクトロス600が鮮やかに証明している。
メルセデスベンツ・トラックスのCEO、アヒム・プッヒャート氏は次のようにコメントした。
「本日、新たなコンボイの運行を開始しました。ドイツ国内でのトラック製造を支えるのはBEVトラックとなりました。これは排出フリーの輸送という未来に向けた力強いシグナルです。工場物流の電動化は技術的な革新と、物流パートナーとの信頼関係を象徴するもので、CO2を排出しない物流ソリューションは既に実現可能なものになっています」。
また、同社事業部長のユルゲン・ディストル氏は次のように話している。
「地場輸送などを中心に弊社の製造工程における物流は、過去2年間で20%以上が電動化され、メルセデス・ベンツの工場には1日当たり100台のBEVトラックが出入りしています。
この度、物流パートナーと協力して欧州全体の貨物ネットワークにフォーカスを拡大します。eアクトロス600はドイツ国内だけでなく欧州全域の国際輸送において真のゲームチェンジャーであり、長距離輸送に適したBEVトラックです」。
長距離輸送も電動化が可能に
ダイムラーはこれまで工場へのインバウンド物流で地場ルートを中心にBEV大型トラックの「eアクトロス300/400」を使用していた。2024年の実績で約40ルート/200万kmを電気のみで走行している。
実証のためeアクトロス600の試験車両が2024年9月から同社のカッセル・ヴェルト工場間の定期路線を走っていたが、量産車の投入により今後はeアクトロス600の比率が増えて行くことを見込んでいる。
新たに投入された14台の車両は、BEVがより長い輸送距離をカバーできることを示すため14のルートを走る。距離にすると150kmから600kmで、中には非常に過酷なルートや、イタリア、ルクセンブルク、チェコ共和国など国境を超えるルートもある。
車両は必要に応じてルート沿いにある公共の充電インフラを利用し、ダイムラートラックの拠点や運送会社のデポでも充電する。合計で年間最大250万kmをCO2フリーで走行する予定だ。
サプライチェーンのインバウンド物流を電動化するというコンセプトにおいて重要な役割を担っているのが、ダイムラーグループの生産拠点における社内充電インフラの構築だ。つまり、メルセデス・ベンツの工場に出入りするドライバーは、荷待ち・荷降ろし時間中にトラックを充電することが可能になる。
ヴェルト工場の場合、既に15基もの充電ステーションが設置されており、稼働を開始している。そのうちの6基は400kWの急速充電に対応している。ヴェルト工場以外ではガッゲナウ、カッセル、マンハイムの各工場、および外部の倉庫に11基の充電器を設置しており、2025年中にドイツ全土にさらに8基の急速充電ステーションを設置する予定だ。
工場の充電インフラは、ダイムラー・トラックのブランドである「トラックチャージ」による充電サービスの一部だ。トラックチャージでは他に電動インフラに関するコンサルティングや整備、運用などを支援している。
また、ダイムラーを含む欧州大手の商用車グループが合弁で設立したマイレンス社は2030年までに3000か所の急速充電ネットワークを整備することにしている。こうした有料の「準」公共充電ネットワークもトラックチャージのソリューションを通じて利用可能だ。
なお、ダイムラーは様々なメーカーの充電ステーションと充電コンセプトを試験し、各メーカーの事例に合わせたソリューションを開発できるように、ヴェルト工場のすぐ近くに「充電パーク」も設置している。
コメント
コメントの使い方