日本と同じくエネルギーの大部分を外国に依存しているインドは、安全保障の観点からも「水素」の活用を推進している。このたび、長距離輸送での水素の可能性を評価するため、同国で初めての水素トラックのトライアルが始まった。
インドが水素技術で世界の主要プレーヤーになるため、担当大臣もグリーンエネルギー革命への支持と投資を呼び掛けている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Ministry of New and Renewable Energy・TATA Motors
エネルギーの国外依存を減らすため水素を活用
インドは「グリーン水素」(再生可能エネルギーのみを利用して水を電気分解し、CO2を排出せずに生産した水素)の活用でグローバルリーダーになることを目指している。
インドの新・再生可能エネルギー省のプララハド・ジョシ大臣は2025年3月4日、インド初の水素燃料の大型トラックの実証運行開始を記念して首都・ニューデリーで行なわれた式典で、このように語った。
ジョシ氏によるとインドはモディ首相のリーダーシップのもと世界的なグリーンエネルギーへの移行において最前線に立っているといい、同国の「国家グリーン水素ミッション(NGHM)」の背景にある「変革のためのビジョン」と、国家としての「エネルギーの自立」に向けたインドの取り組みを強調した。
1974億ルピー(約3400億円)の予算を投じているNGHMは、水素の生産から貯蔵、応用まで、さまざまな分野でインドを世界の主要プレーヤーとして確立することを目指している。
年間41.2万トンのグリーン水素を生産するため、合計3GW出力の電解装置を承認したそうで、輸送や貯蔵などの分野で安全性と将来の拡張性を確保するため88の基準も公表したという。
さらにジョシ氏は、2030年の将来の目標も概説した。水素の生産のために125GWの再生可能エネルギーを追加し、電解装置の総出力は年間60~100GWに、グリーン水素の生産量は年間500万トンになる。これによりCO2の排出量は年間で5000万トン削減され、エネルギーの輸入コストを1兆ルピー(約1.7兆円)節約する効果を期待している。
16台の水素トラックがインドのモビリティの転換点に?
水素燃料トラックの実証運行は最長24か月で、タタ・モーターズの新世代水素内燃機関(H2-ICE=水素を燃焼する内燃エンジン)トラックと燃料電池を搭載したトラック(FCEVトラック)が、合計16台配備される。
今回導入される水素トラックはパワートレーン(H2-ICE/FCEV)のほか構成や積載量なども様々で、商用化にむけた可能性を評価するとともに、運行に必要なインフラについても検証する。
走行するのはデリー首都圏やムンバイ、プネ、バドダラなどインドの主要な物流路線で、運行に必要な水素燃料はインド石油公社がファリダバード、バドダラ、プネ、バラソールの4か所に設立した水素補給用のステーションで充填する。
トライアルを開始した車両のうち2台は、タタ・プリマ H.55Sトラックで、うち1台はH2-ICE、もう1台はFCEVだという。H.55Sはタタの「プリマ」大型トラックの連結総重量55トン級トラクタ車型に水素パワートレーンを搭載したもので、H2-ICE搭載車は2024年のバーラト・モビリティ・グローバル・エキスポで初めて公開されている(燃料電池搭載車は今回が初公開?)。
当時公開された車両諸元は、積載量38トン、航続距離500kmの4×2トラクタで、水素エンジン(カミンズ・B6.7H型)の出力は290hp、トルクは1200Nmだった。ただ、実証運行を行なう車両と諸元が同じかどうかは不明だ。
16台の中にはタタ・プリマ H.28トラックも含まれる。こちらは車両総重量28トン級のH2-ICEを搭載する単車トラックで、今年1月のバーラト・モビリティ・グローバル・エキスポ2025で公開されている。
ジョシ氏は水素がインドのエネルギーの将来を形作る上で重要な役割を果たすとして、関係者にグリーンエネルギー革命を支持するように呼び掛けている。
同氏によると水素燃料トラックのトライアル開始はインドのモビリティ部門の劇的な転換を表しており、化石燃料への依存を減らし、エネルギー安全保障を強化するものだという。
インドは世界第3位の石油消費国で、原油の輸入量は世界4位。日本と同じくエネルギーの大部分を国外からの輸入に依存している。こうした依存を減らす上で水素技術がますます重要になりそうだ。
【画像ギャラリー】水素トラック記念式典の様子とタタ「プリマ」の新エネルギー車(10枚)画像ギャラリー
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