米国のトラックメーカー、ウェスタンスターはゲーマーとトラックドライバーを同時に試乗会に招待するというユニークな取り組みを行なっている。
斬新な手法だが新しい人材の確保に効果を上げているようで、ゲーム内でしかトラックを運転したことのなかった若者が、免許を取得し現実の道路を走りはじめているという。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck North America LLC.・Western Star Trucks
熟練ドライバーとゲーマーの共通点
担い手不足に悩むトラック業界が新しい人材を必要としているのは、世界に共通する課題だ。それだけにトラックメーカーとしても様々な対策を行なっている。だが、ダイムラートラック・グループに属する米国のウェスタンスターの取り組みは、中でも独特なものだ。
同社は毎年、オレゴン州ベンドで「スターネーション・エクスペリエンス」と称する試乗イベントを開催しており、2025年は6月6~9日まで開催された。トラックメーカーがドライバー向けの試乗会は主催するのは珍しくない。ユニークなのは、ウェスタンスターがプロドライバーと共に「ゲーマー」を招待していることだ。
そのゲーマーというのが、世界的に人気のコンピューターゲーム「アメリカントラックシミュレーター」(ATS)の熱心なファン達だ。ATSはシミュレーションゲームを得意とするチェコのSCSソフトウェアが開発しているゲームで、欧州版の「ユーロトラックシミュレーター2」の続編として2016年に発売された。
ゲーマーとドライバーを同時に試乗会に招待するという他に類を見ない取り組みは、若者中心のゲームコミュニティとベテランが多い運送業界の間にある世代間の溝を埋め、斬新かつダイナミックな方法で業界への門戸を開くものとして実際に効果を上げている。
ベテランドライバーと熱心なゲーマーはトラックへの「愛」が共通しており、実際に職業ドライバーとしてのキャリアにも繋がっているそうだ。
同社のブランドマネージャー、アレックス・マーティン=バンザー氏は、「ウェスタンスターは新しい才能をこの業界に惹きつけ、人生をトラック輸送に捧げている人々を称賛することで、運送業界の活力を維持することの重要性を理解しています。スターネーション・エクスペリエンスは、こうした繋がりを築くための方法の一つであり、参加者にはトラック業界とそれを支える人々を内側から見てほしいと思っています」と話している。
参加者はこの体験の一環として北米ダイムラーのハイデザート試験場への限定的なアクセスと舞台裏の見学が可能だ。そこではウェスタンスターの「Xシリーズ」大型トラックへの試乗や業界のリーダーたちと交流する機会が設けられる。
またフライフィッシングなどオレゴン州の魅力を堪能するアドベンチャー要素も盛り込まれ、仮想世界と現実世界を問わず「トラック運転手」としての仲間意識を一層高めるものになっているという。
「トラック業界を再びクールに」
過去の参加者たちもこの体験がもたらした影響について語っている。
2024年のスターネーションに参加したカナダのマニトバ州在住のプロドライバー兼ATSゲーマー、ブレンダン・シェレンバーグ氏は「トラックについて話したり、トラックを運転したり、お互いの走りを比べたり、ただ一緒に笑ったりして、みんなとても楽しかった」と話している。
北米でトラックの運転に必要な商用運転免許(CDL)は必須ではないが、一部のアクティビティではトラックを運転するため取得が推奨される。
トラック業界では唯一無二のイベントだが、トラックへの愛情は参加者に共通している。2024年はATSのゲームコミュニティから2名が選出され、本物のトラックは一度も運転したことがなかった25歳のゲーマー、コナー・ハジアック氏は、ゲームで培ったスキルを実際の車両で試す機会を得たという。
さらに、同じイベントに参加したケイシー・ラデル氏はトラックを運転して20年のベテランだが、高額な商用運転免許の取得費用が若者がトラックドライバーになるための足かせになっていると聞き、コナーの免許取得費用を負担することを申し出たそうだ。
こうしてコナーはバーチャルな道路から現実の道路への転身を果たした。
巨大な車両を操るトラックドライバーという職業は、かつては高収入が期待できたこともあり、若者たちにとっては夢のある仕事であった。憧れだけでは続かない仕事だが、憧れがなければ誰がこの職業を目指すだろう?
情熱を持った新世代のドライバーに刺激を与えるための大胆な取り組みは、トラックドライバー不足に悩む日本でも必要とされているのではないだろうか。
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