昭和の前~中期(1930~60年代)まで日本中で普及していた三輪トラック。いまでも700台以上がナンバー付きで残存しているほか、企業や博物館で保存・展示している例が少なくありません。先日、高所作業車の取材でお邪魔した特装車メーカー・アイチコーポレーション(以下アイチ)もその一つで、一般非公開ではありますが、上尾市の本社ロビーで同社の最初の製品「A型建柱車」を展示しています。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
建柱用クレーンを架装したくろがね三輪トラック
建柱車(けんちゅうしゃ)とは、電柱を設置するためのクレーン装置を架装したクルマのことで、現在は、電柱を建てる穴の掘削機能を併せもつ「穴掘建柱車」へと進化しており、主に電気工事に関わる企業で使われています。地味な特装車ですが、電気のあるくらしに不可欠なクルマの一つです。
アイチが保存しているA型建柱車は、同社創業の年である1962年(昭和37年)に製造されたもので、3段テレスコピック式ブームの建柱用クレーン装置は最大吊上高7.5m、最大吊上重量1.2トンという性能を有しており、当時はオール人力だった建柱作業の省力化を実現しました。
建柱用クレーン装置の動作は、トランスミッションPTO(動力取出装置)を介しながら、エンジンの動力で歯車機構やウインチを動かす機械式に拠っています。今日のようにPTOでいったん油圧ポンプを駆動し、その油圧パワーで上モノを動かす油圧式とは異なる方式です。ただ、A型建柱車ではアウトリガのジャッキ昇降のみ油圧式になっており、機械式と油圧式が混在しているのが興味深いところです。
この上モノを架装している三輪トラックは、1962年製の「くろがねKY型」という積載量2トン級の三輪シャシーで、ホイールベース3215mmの「10尺」と呼ばれるタイプ(KY10型)です。KY型は当時存在していた自動車メーカー・東急くろがね工業が1958~62年まで生産したモデルで、1.5リッター水冷直列4気筒OHVの62PSガソリンエンジン、2人乗り鋼製キャブ、円形ハンドルを備えた、モダンなスペックの三輪トラックでした。
保存車は、アイチがユーザーの使用済み車を引き取って、以前から保管ならびにレストアしていた個体です。レストアはまず、自らが生産した上モノ(架装物)を実働状態へと復元し、それからシャシーの復元に取りかかったとのこと。12年前の時点ですでに美しい状態になっていましたが、最近では欠損部品を3Dプリンタで補うといったアップデートがなされており、大切にお手入れされていることがうかがえます。
と、ここまでは保存車のプロフィール。実は、A型建柱車は、日本の自動車産業および特装車産業がたどってきた激動の歴史が、断層のようにみられるクルマでもあるのです。
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