「2024年問題」の助け船となるか!? にわかに浮上した「東海道フェリー構想」ってどうなの?

内航海運の利用に肯定的なアンケート結果

 この2つの調査項目をクロス集計し社数をカウントするとともに、選択肢中央値を用いて17社でのモーダルシフトできる台数を推計した。

 まず「関東→関西」の場合、東海道フェリーへのモーダルシフト%別の企業数と台数推計値は、企業ごとにモーダルシフト可能台数は大きく異なるが、トラック輸送のコストと同等の場合は17社ベースで月間1900台以上の利用可能性が見込まれることがわかった。

 コストが割高になると利用割合は大きく低下するが、それでも一定以上の利用ニーズがあることもわかった。

 また「関西→関東」の場合も同様の傾向が見られ、トラック輸送とコストが同等の場合は17社ベースで月間1400台以上の利用可能性が見込まれる。コストが割高になった場合も「関東→関西」と同様の傾向だった。

 調査結果をまとめると、東海道フェリーにモーダルシフトできる割合は、企業ごとの事情によって異なり、またコストがどうなるかで変化するものの、上り下りとも一定以上の利用台数ニーズがあることが確認された。

 たとえば、輸送コストが同等なら25%前後のモーダルシフトの可能性があり、輸送コスト10%増でも10%前後のモーダルシフトが見込めると推計されている。

 前回のアンケートでも東海道フェリー航路については、ドライバー不足への対応やBCP対策の観点からも非常に有意義な航路との意見が見られた。

東京九州フェリーが保有する「はまゆう」。同社は横須賀〜新門司フェリーターミナル間を航行
東京九州フェリーが保有する「はまゆう」。同社は横須賀〜新門司フェリーターミナル間を航行

 ちなみにBCPとは「事業継続計画」のことで、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことを指す。

 東海道フェリー構想の今後については、長距離トラックの輸送コストは上昇することが見込まれるため、荷主・物流事業者の内航海運の利用ニーズは高くなると予想。

 今後はより広範囲な調査の実施も含め、東海道フェリーのフィジビリティ(実現可能性)について、より具体的な検討することが望ましいと考えられるとしている。

順風満帆か太平洋波高しか? 東海道フェリーの今後を占う

 さて、日本の物流の大動脈である東海道をモーダルシフト化できれば、「2024年問題」解消の一助になるだろうし、CO2排出量も船舶はトラックの1/5と言われているから、環境にも省エネにもグッドということになるのだが、そう簡単な話ではないのだ。

 2021年の輸送機関別の国内貨物の輸送量を見てみると、輸送重量(トンベース)では、トラックが約92%、内航海運が約7%、鉄道や航空は1%以下となっている。ちなみに日本の鉄道は、旅客主体に運行ダイヤが組まれているので、貨物輸送に充てられるキャパシティはそれほどないと見られている。

 では、2021年の輸送機関別の国内貨物の状況をトンキロベースで見てみよう。ちなみにトンキロとは、貨物の重量(トン)に輸送距離(km)を乗じたもので、たとえぱ10トンの貨物を200km先まで届けた場合は2000キロトンになる。

 輸送機関別の国内貨物のトンキロは、トラックが約55%、内航海運が約40%、鉄道が4パーセント強といったところ。

 このことから分かるように、内航海運は大量輸送に強く、代表的な船舶で10トントラック約160台分、16キロリットル積みタンクローリ60台分に相当する貨物の輸送が可能とされている。

 しかもこれに要する労働力は一般的に5人ほどだというから、内航海運にモーダルシフトすれば、「2024年問題」も一気に解決しそうな気がする。

 しかし、それは短絡というものだろう。大量輸送に適し、環境にも省エネにも優れ、しかも省人化も達成できるモーダルシフトだが、それではなぜ今もって進展していないのだろうか? そこにはトラックの利便性という大きな壁が立ちはだかっているからだ。

 まず船舶は運航スケジュールが決まっており、トラックのように融通が利かないことがあげられる。また、当然のことながらフェリーターミナルからフェリーターミナルへ運航ルートも決まっているので、利用できるルートがごく限定的になっててしまう。

 トラックは出荷先から届け先まで任意の時間にドア・ツー・ドアで輸送できるが、船舶の場合は一旦フェリー港で船積みするか船に乗り込む必要があり、これは着ターミナルでも同様である。

 船舶では天候や自然災害、何らかの不測の事態が起きたときに輸送できないケースが発生する割合が高い。もちろん、そのリスクはトラックにもあるが、輸送ルートを変更したり、別のトラックに荷物を載せ替えたりするなど、柔軟な対応が可能である。

 内航海運では、長距離の場合ほどコスト削減につながるが、短距離ではコストアップになってしまう。その損益分岐点は約500kmだと言われている。つまり東海道を内航海運でつなぐのはコスト的には厳しいのだ。

 こうして見てくると、東海道フェリー構想の夢が急速にしぼんでしまうように感じられるが、今はアンケート調査の段階である。肯定的な企業も多いので、前向きにとらえてよいのかもしれない。

 東海道フェリー構想では東京湾(神奈川県)と伊勢湾(三重県)を結ぶことを想定しており、現時点では具体的なフェリーターミナル名はあげられていないが、伊勢湾の場合は鳥羽フェリーターミナルであろう。

 神奈川県の場合は迷うところだが、横須賀フェリーターミナルが有力だと思う。どちらも最寄りのインターチェンジより約15分のアクセスである。

フェリーと連携してあらゆる台車をけん引! 知られざる内航ドレージドライバーの一日
旅客は乗船しない貨物専用のRORO船。日通などの大手物流企業では会社独自に同様の船舶を保有するケースもある

 「2024年問題」を考えたときに最も望ましいのは、RORO船によるトラック/シャシーの無人航送になるだろう。ちなみにロールオン・ロールオフを語源とするRORO船は、貨物をトラックで積み降ろしするため、船尾や舷側にゲートを設けた船舶のこと。効率的な荷役ができるのが強みだ。

 フェリーもRORO船も車両が直接乗り入れることができるが、フェリーは旅客も運ぶため、ドライバーも同乗でき、この時間は休息時間となる。最近はフェリーでも無人航送が増えてきているので、その違いは少なくなってきているという。

 ところで、これも古くからある物流用語なのだが、「複合一貫輸送」というものがある。トラックと船舶の輸送をシームレスでつなぐといった意味合いになると思うが、東海道フェリー構想はモーダルシフトというよりこちらを目指すべきではないだろうか。

 複合一貫輸送としてみた場合、やはりボトルネックとなるのは港湾ターミナルでの作業や手続きになると思うが、ここに情報通信技術を活用して料金決済やシャシー管理等を効率化する、さらには自動運転のトラクタの導入してシャシーを船舶に搬送する……、そういった構想を描いてもいいのではないだろうか。

 これらは次世代高規格ユニットロードターミナルとして2030年を見据えた港湾の中長期政策「PORT2030」で提唱されている。

 東海道フェリーはあくまでも線の輸送である。トラックの利便性を活かした面の輸送まで視野に入れれば、東海道フェリーも「2024年問題」の真の「助け船」になるかもしれない。

【画像ギャラリー】再び注目されるフェリー・RORO船を活用する複合一貫輸送(8枚)画像ギャラリー

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