高速道路を走る長距離大型トラックのトランスミッションは12段というギア段数が一般的。今は時代が進化し、自動変速機が普及しているが、ひと昔前のドライバーは、こうした多段トランスミッションをマニュアルで操作していたというから驚きだ。
一体なぜ大型トラックには多段トランスミッションが採用されるのか? その理由をトラックに造詣の深い多賀まりお氏が徹底解説する!!
文/多賀まりお 写真/三菱ふそうトラック・バス、トラックマガジン「フルロード」編集部
※2022年9月12日発売「フルロード」第46号より
多段化が進む理由
厳しいディーゼル排出ガス規制に対応しながら高効率を追求する最新の大型車用ディーゼルエンジンは、小ボア×ロングストローク型の燃焼室に低回転域からの高過給を組み合わせた低回転高トルク型の特性を持つ。
現行車の中核である8.8〜10.8L級エンジンの最大トルク発生回転数は950〜1200rpm、最高出力は1600〜1800rpmといったところ。常用する回転数はひと世代前のエンジンに比べて500回転以上低く、燃費が良いとされる回転域も1300〜1500rpmあたりとなっている。
このため組み合わせる変速機が通常の7段だと、それを超える回転数まで引っ張ってからシフトアップしないと変速後に回転数が落ちすぎ、とりわけ低いギア段ではスムーズな再加速が得にくくなる。
最新世代の大型車用エンジンの高い省燃費性能や動力性能は、7段ではなく、12段あるいは16段といった多段変速機との組み合わせによって発揮される。そうした変速機を主眼に設計されていると言ってもいいだろう。ギア段の数を増やす目的は、各段が近接したギア比を持つ「クロスレシオ化」と、一番低いギア段から一番高いギア段までのギア比の幅が広い「ワイドレンジ化」である。
クロスレシオでは変速してもエンジン回転数の変化が少なく、トルクバンド内に回転数を保つことができる。ワイドレンジ化は、低い発進段のギア比によって小排気量過給エンジンで不足する発進時のトルクを補完し、高い最高段のギア比によって高速巡航時の低回転化〜省燃費性能の向上をもたらす。
多段化に不可欠な副変速機とは?
8段以上の変速機は副変速機を伴うのが一般的だ。副変速機は通常2段で、ギア比を大きく変換する「レンジ」と、小さい変換でギア比を細分化する「スプリッタ」の2種類がある。
例えば4段の主変速機にレンジギアを組み合わせた8段変速機では、ローレンジ+主変速機の4段が1〜4速、ハイレンジ+主の4段が5〜8速のギア比となる。つまり4速はローレンジの4速、5速はハイレンジの1速なので、4〜5速間の変速時にはレンジのロー/ハイ切り替え操作が必要だ。
スプリッタのギア比は1.0前後の数値で、これを掛け合わせることで例えば主変速機の1〜2速が1速+スプリッタ・ロー、1速+ハイ、2速+ロー、2速+ハイの4段分に細分化される。この機構を前出のレンジ付き8段変速機に組み合わせれば16段になるわけだ。
なお、単車系や2軸セミトラクタには3段の主変速機にレンジ・スプリッタを組み合わせた12段変速機が多く使われる。上の表はUDトラックス・クオンの7段マニュアルと12段AMTの比較図だが、12段AMTの各段のギア比に最終減速比を掛け合わせて7段と比べると、12段のほうがワイドレンジ化されているのがわかる。
スプリッタは通常、主変速機の前後、クラッチに繋がる入力軸からカウンターシャフトへ回転力を伝える部分に搭載される。レンジは後段の出力軸に装着され、遊星歯車を用いたものが多い。レンジのギア比は通常ハイ側が直結(1.0)、スプリッタにはハイ側が直結のものとローが直結のものがある。
主変速機の最高段は通常直結なので、スプリッタのハイ側を直結とすることで主/副変速機全体の最高ギア談が直結状態となる。入力軸と出力軸を直接つなげる直結段は変速機内のエネルギー伝達ロスが小さく、高速走行で使われる最高団を直結とすることで総合的な省燃費効果がもたらされる。
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