三菱ふそうとトーヨータイヤは、1月下旬に電気小型トラック「eキャンター」の雪上試乗会を北海道・ルスツリゾートの一角で共同開催した。寒冷地に弱いとされるEVだが、実際のところどうなのか? eキャンターの実力を検証した。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
※2025年3月発売「フルロード」VOL56より
降雪地域でも導入が広がるeキャンター
三菱ふそうのeキャンターは、2023年3月のフルモデルチェンジで、駆動モーターをリアアクスルに一体化したeアクスルを採用し、ホイールベースに準じたバッテリーパックを1〜3基搭載できるGVW5t〜8tクラスまでの幅広い車型(国内は28車型)を展開。電動PTOを設定することで特装系シャシーとしても対応できる電気小型トラックである。
国内では従来型も含めると現在2000台以上が全国のユーザーに納入されており、降雪地域においては2024年末時点で北海道、宮城、山形、福島、新潟、富山、石川、福井、長野で合計243台、このうち新型モデルは229台の納入実績がある(北海道は新型が初だそう)。
一般的にBEVは寒冷地に弱いとされているが、eキャンターの新型モデルでは、気温低下を原因とするバッテリー性能の低下を防ぐため、普通充電中に充電器側の電力を使い出発時間にあわせて予熱するタイマー機能「バッテリープレコンディショニング」を標準搭載するほか、比較的電力消費が大きい暖房(ディーゼル車と同じ電熱線を利用する電気温水暖房/PTCヒーター)の使用を抑えるため、省電力暖房装備としてデフロストパッケージをオプションで設定。
デフロストパッケージでは、ステアリングヒーター/シートヒーター、電熱線が入ったフロントガラスで氷雪や曇りを除去するウインドシールドヒーター、キャブの断熱効率を高めるための足元インシュレーターがセットで備わり、降雪地域のみならず冬場の走行を考えれば是非備えておきたい装備となっている。

また、雪道や凍結路面の安全運転に寄与するEVの機能としては、トラクションをかけずに走り出せるトルコン式ATを模したクリープ機能や、低μ路でも安定した減速効果が得られる「B0」〜「B3」の4段階の回生ブレーキなどのモーター制御が備わる。
また、義務化されている搭載技術ではあるが、車体がスリップしそうになった際にモーター出力やブレーキを電子制御することで姿勢を保つ「ESP」、それに付随するトラクションコントロールの「ASR」、電子制御制動力分配システムの「EBD」付き「ABS」なども雪道を走行する際は欠かせない。
圧雪路の公道試乗でeキャンターを試す
公道試乗は、約3.8kmほどの圧雪路の峠道を往復するルートで行なった。出発地点は山の中にあるので、往路のほとんどが下り坂、復路では上り坂となっている。
試乗車は、EXワイドキャブと超超ロングボディを有するGVW8tクラスのウイング車(パブコ製)。積載するウエイトは約600kgほどだが、大容量のLサイズバッテリーに加えリア荷重になる格納ゲートも備わっており、GVWとしては6.7t超。なので、雪道でも比較的トラクションは掛かりやすい車両といえる。
またモーターは前述の高馬力仕様、タイヤはトーヨータイヤのバランス型スタッドレス「M919(225/70R19)」を装着する。

今回往路では、回生ブレーキをメインで使って下ってみた。勾配は緩やかだが長い下り坂でカーブも多い。
初めは回生ブレーキの「B2」に設定したが、速度が乗って途中で「B3」に変更。「B3」では強力な制動力が発生し、カーブ手前などでもブレーキを踏まずに充分な減速が可能になるほか、アクセル操作で回生のオン/オフができるため、速度のコントロールも自在である。
排気ブレーキのようにタイムラグがなく、瞬時に制動を掛けることができるのも扱いやすさのポイントだろう。
ところで、雪道のセオリーとして、トラックの補助ブレーキの入れっぱなしは厳禁とされている。これは凍結した路面などで、補助ブレーキの制動が掛かった際に滑り出すことがあるためである。
では回生ブレーキではどうなるだろうか。今回、eアクスルの後輪が流れ出す覚悟でアクセルを踏み込んでから、ペダルから足を離し「B3」の制動力を一気にかけてみたが、とくに滑り出すことはなく若干拍子抜けしてしまった。
eキャンターの回生ブレーキは、制動の掛かり始めはじんわり効くようなイメージとなっており、強力な「B3」だからといって、そこまで雪道で神経質になる必要はないのかもしれない。
もちろん、路面環境や道路状況、積載状況にもよるので過信は禁物。ケースバイケースで回生ブレーキは使い分ける必要があるものの、今回のような比較的走りやすい圧雪路且つあまりアクセルを踏む必要のない長い下り坂では「B3」で安定した制動をかけながら走るのがベストマッチと感じた。
帰りの上り坂ではeアクスルやASRを試してみた。EVでは多段ギアを有するトランスミッションが不要となるため変速時の失速がなく、坂道でもスイスイと上っていく。アクセルもレスポンス良く反応してくれるのでトラクションのコントロールも容易い。
少し多めにアクセルを踏んで走行すると、カーブの立ち上がりなどでASRが作動。ASRは空転している車輪にブレーキをかけたりモーター出力を抑える制御を行なうことでトラクションを保持する機能だ。
eキャンターのASRは比較的リニアに介入する印象だが、極端に出力が落ちるというのではなく、あくまで自然体にサポートしてくれる感じが好印象であった。
EVは確かに寒冷地での弱点もあるが、思った以上に雪道との相性がいいことがわかった。eキャンターは雪道に不慣れなドライバーでも安心して、そして安全に乗れるトラックといえるのではないだろうか。
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