「ダカールラリー2025」の挑戦を終えた日野自動車、日野チームスガワラ。日野チームの参戦車両は、サウジアラビアから船便で輸送され約2カ月に及ぶ航海を経て、このほど日野自動車の本社(東京・日野市)に到着した。
今後車両はオーバーホールが行なわれ、今大会でトラブルが発生した箇所の対策を含め次戦の「ダカールラリー2026」に向けた改良が実施される。次戦の参戦車はどう進化するのか? 帰国したばかりの車両を取材した。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
「ダカールラリー2025」の軌跡
まずは今年の1月3日~17日、中東のサウジアラビアで開催されたクロスカントリーラリーの世界最高峰イベント「ダカールラリー2025」の戦いを振り返ってみよう。
「HINO600シリーズ」で日本から唯一トラック部門に参戦を続ける日野チームスガワラの菅原照仁/染宮弘明/望月裕司組は、今大会で4輪総合97位トラック部門13位/44台の成績で完走を果たし、日野自動車は初めて参戦した1991年以来の連続完走記録を34回に伸長。
またチーム代表の菅原照仁はドライバーとして初出場した2005年大会以来となる20年連続完走を達成した。
いっぽうで今大会は波乱も多かった。前半戦を部門総合7位で折り返し順調かと思われたが、後半戦は初日(11日)のステージ6で右前輪のブレーキフルードが漏れてブレーキが効かなくなるトラブルが発生すると、前後輪に動力を伝えるトランスファーにトラブルが続出する。
まず13日のステージ8でセンターデフ付きのトランスファーが壊れデフロックが作動しなくなる症状が発生し、翌日のステージ9を予備のトランスファーに交換して挑むことに……。
しかしステージ9の競技終盤に穴を飛び越えた際にアクスルの前後方向の動きを抑制している左前側のトルクロッドが外れ、過度な逆入力がプロペラシャフトを介して伝わりトランスファーケースを叩き割ってしまう。
これによりメカニックはすでに使い切っていた2基のトランスファーをニコイチで修復するとともに、甚大なダメージを負ったデフ機構は溶接で直結(デフロックなしでは砂丘などは到底越えられない)する。
だが16日の砂丘郡が乱立するステージ11、ゴールまで20kmといった地点でトランスファーが再びブロー。砂丘の頂上で完全に動けなくなってしまう。
乗員クルーの機転でトランスファーを外しFR化を施すことで脱出を試みて、なんとか真夜中にビバーク地点まで車両を戻すことができたが、メカニックはすでにパーツ単位で部品を使い切った中、バラバラになったトランスファーを修復するという難題に挑むことに……。
しかしメカニックはどうやって走らせるかアイディアを出し合いながら、なんとか最終日の出走時間ギリギリでパートタイム4WD(普段はフルタイム4WD)として修復を間に合わせることに成功。完走も絶望的だった中でチームの総合力を発揮し、結果的に総合13位でゴールを切ったのである。
トラブルを踏まえ車両の信頼性のアップを目指す
後半に頻発したトラブルでは何が起きていたのだろうか? 今回、日野自動車の本社で2025年大会を走り抜いたHINO600シリーズと、トラブルで取り外した部品を見せてもらった。
参戦車両はゴールに到着したままの姿で船に積まれて運ばれている。実は最終ステージのパートタイム4WD仕様は競技中に再び壊れ、今度はFFの状態となってかろうじて走れているそうだ。
いっぽう取り外した部品を見ると、センターデフのドッグギアは歯がなくなり、インナーベアリングが熱で完全に溶着。その要因となった衝撃で抜けたトルクロットは変形しブッシュが飛びだした状態に……。
またステージ6でオイルシールが抜け落ち効かなくなった右前輪ブレーキのディスクローターは、高温になったことで無数に入った小さなクラックとともに大きな貫通亀裂が1本刻まれている。チームメカニックにとってもここまでのダメージは見たことがないという。
近年のダカールラリーは全体的に車両の性能が上がったことでレースが高速化し、それに伴いトップスピードを抑制しようと加減速の多いコースが主催者側で設定されている。それゆえに車両には負荷がかかりやすくなっており、今回のようなトラブルの要因にもなっている。
ちなみにトラブルが頻発したメリトール社製トランスファーは、2018年から継続して採用しており信頼性もそこそこ高いものだ。また破壊安全率(強度と許容応力の比率)は現在のスペック内であれば問題がないことも確認されている。
ダカールラリーで上位を目指すにはマシンの信頼性を高める必要があるわけだが、今大会のトラブルを受けて対策も始まる。
まず最初に起きたデフロックの故障に対しては、安全率としての問題がないため(次戦もメリトール製を継続予定)、エアを使って動かすドッグクラッチの噛みが甘かった可能性を推測。しっかりエアの保持圧を担保できるようにエア配管などの調整を予定する。
またステージ9でトランスファーケースを叩き割ってしまったプロペラシャフトは、もともと伸縮構造を持つが、伸縮する幅を拡大させ、衝撃が伝わっても緩衝させるように対策。さらにトルクロッドのトラブルは止めているカシメ部分が抜け落ちて起きており、建機用などで採用されているカシメ構造ではない外れにくいブッシュを採用する予定だという。

いっぽう次戦に向けて、ここ最近はほとんど変更していなかった足回りについても乗り心地や走破性を考えバネレートを下げる方向で進める。
といってもサスペンションはリーフスプリング+コイルスプリング式のショックアブソーバー2本の構成で、3本のバランスを取るのは容易ではない。またバネ下重量は1トン以上あるため、柔らか過ぎても突き上げなどが厳しくなってしまう。今後、最適なバランスを見ながらセッティングが行なわれる見込みだ。
日本という地理上、参戦車両が船上にある期間は往復で約4カ月。さらに1月の大会期間を除くと、実際に車両開発にかけれる時間は約7カ月ほどで、次の大会までは長いようで短い。日野チームスガワラにとってオフシーズンではあるが、次戦に向けてチームの戦いはすでに始まっている。
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