インドのタタ・モーターズによる、イタリアのイヴェコの買収が正式に発表された。イヴェコは防衛部門を分離した上で、2026年前半までにタタの傘下に入る。
商用車業界では新たにグローバルなグループが誕生し、世界地図が変わることになりそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/IVECO Group NV・TATA Motors Limited・ IVECO DEFENCE VEHICLES・ASTRA Trucks
タタがイヴェコを買収へ
世界の商用車業界を再編する動きが加速している。
インド最大手の自動車メーカー、タタ・モーターズ・リミテッド(以下、タタ)が、イタリアの大手商用車メーカー、イヴェコ・グループNV(以下、イヴェコ)を買収する。
タタによるイヴェコの買収の打診は、2025年7月19日にロイター通信が報じていたが、同30日に両社が正式に発表した。
報道によると、イヴェコの防衛部門(軍用車事業)をスピンオフした上で商用車部門をタタが買収する方向で、イヴェコの議決権の約43%を保有するアニェッリ家(フィアットの創業家)の投資会社・エクソールとタタが協議していた。
イヴェコはタタの他、韓国の現代自動車などとも提携している。バッテリーEV(BEV)と燃料電池EV(FCEV)事業では米国のニコラと提携していたが、欧州での新エネルギー車事業はイヴェコが買い取り、同社が単独で展開している(ニコラは2025年始めに破産)。
いっぽう、JLR(ジャガー・ランドローバー)を傘下に持つタタは、欧州にも乗用車の製造拠点・販売網を展開しているが、5月に乗用車部門と商用車部門の分離を完了している。成長が期待されるインドの商用車市場で60%という圧倒的なシェアを誇り、とりわけ商用車の世界でグローバルなグループを形成する動きに繋がるか注目されていた。
自動車業界が百年に一度といわれる変革期を迎える中、商用車各社は「規模の経済」を追求するためグループ/アライアンスを形成してきた。国内でいえば、日野と三菱ふそうの経営統合や、いすゞによるUDトラックスの子会社化なども同じ文脈だ。
しかし、イタリアのイヴェコは世界的な商用車メーカーの中では規模が小さく、近年ではステランティスの成立に関連してフィアットグループから独立するなど、世界の商用車業界の再編が進む中で存在感が低下していた。
そのため、事業拡大のためにM&A(買収・合併)を実施する可能性が噂されていたのだが、2020年に明らかになった中国の第一汽車による買収交渉は、イタリア政府が「国家の戦略的利益である」として阻止する構えを見せ、交渉が行き詰まったことがある。
従って、イヴェコがM&Aを成功させ新たな商用車グループを形成するには防衛部門の分離が不可欠となっていた。
新たな商用車グループが誕生?
プレスリリースによると、イヴェコとタタの両社は統合を通じてお互いの能力を補完し、グローバルな事業展開と戦略ビジョンの共有により長期的な成長を促進して、より大きな価値を生み出すとしている。
取引の完了はイヴェコグループからの防衛部門の分離が条件となっており、後述する通り、同日付けで防衛部門をレオナルドに売却することが発表されている。
タタは新たに TML CV Holdings PTE LTD を設立し、同社を通じて株式の公開買付けを行なう。ミラノ市場に上場するイヴェコの時価総額は約45億ユーロ(8800億円)だが、防衛部門の売却額が17億ユーロ、商用車部門の買収額が38億ユーロ、あわせて55億ユーロ(9360億円)の取引を見込む。
オファーはイヴェコの株式の100%を取得することを目的としており、取引が完了すればイヴェコは上場廃止となる予定だ。イヴェコの取締役会、および筆頭株主のエクソールも公開買付けに応じることを推奨している。
防衛部門の売却は2026年第1四半期(2026年3月31日まで)に完了する予定で、取引全体は当局の承認を経て2026年前半での完了を予定している。
両社は、この取引を通じて事業及び地理的なオーバーラップを排除してグローバルなプレゼンスを発揮する強力な商用車グループを創出するとしており、年間の大型商用車の販売台数は54万台となる見込み。
売上高は両社合わせると年間22億ユーロで、そのうち50%が欧州、35%がインド、15%が南北アメリカとなっており、新グループではアジアやアフリカなどの新興市場で競争力を確保することが課題となりそうだ。
余談だが世界の商用車グループは、ダイムラートラック(三菱ふそうの親会社で、日野・ふそうの統合でトヨタと合意)、ボルボグループ(先日、いすゞグループとの新たなアライアンスを発表)、トレイトン(フォルクスワーゲンの商用車部門)などが大手で、他にパッカーグループや電動化で先行する中国企業、新興メーカーなどがあり、合従連衡が続いている。
統合後のグループは、両社のサプライヤーネットワークを活用するとともに、持続可能なモビリティに投資を行ない、グローバルにサービスを提供する上でより有利な立場を確保する。
各グループの拠点と従業員コミュニティは維持され、サプライヤーと顧客を含むステークホルダーの利益も守られるという。イヴェコはパワートレーン開発のFPTインダストリアルを傘下に持つが、取引を通じて同社の能力も拡張する。
世界の商用車業界の再編において新グループは台風の目となる可能性を秘めている。タタの会長、ナタラジャン・チャンドラセカラン氏のコメントは次の通りだ。
「これはタタ・コマーシャル・ビークルの分離に続く重要なステップです。両社を統合した新グループは、両者の戦略的なホームマーケットであるインドと欧州だけでなく、真にグローバルな市場で戦う企業となります。お互いのビジネスを組み合わせることで大胆な投資も可能になります。関係機関からの承認が得られることを期待しています」。
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