韓国の現代自動車は燃料電池大型トラック「エクシェントFC」の米国向けモデルをモデルチェンジした。トランプ政権の環境政策でFCEVには逆風が吹いているが、北米市場での継続的な取り組みを強調する。
また、同車にプラスの自動運転AIを搭載するコンセプトも発表し、現代グループが北米の水素エコシステム拡大を図っている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Hyundai Motor Company
現代が新型「エクシェントFC」公開
韓国の現代自動車は4月29日、米国カリフォルニア州アナハイムで開催された運送業界の見本市「ACTエキスポ」において、同社の燃料電池大型トラック「エクシェント・フューエルセル」(以下、エクシェントFC)の新型モデルを公開した。
大型商用車の「脱炭素化」で本命技術とされてきたのが燃料電池(FC)システムで、市販の燃料電池電気自動車(FCEV)大型トラックはこれまで主に北米市場に投入されてきた。
ところが、トランプ政権による環境政策の方針転換などがあり市場展開をリードしていた米国の2社(ニコラとハイゾン)が相次いで経営破綻し、トヨタ製のFCシステムを搭載したFCEV大型トラックを予定していたパッカーグループも計画を無期限で延期。北米の「クラス8」(大型トラック)市場でFCEVを継続するのは韓国の現代自動車のみとなっていた。
その現代自動車がACTエキスポでエクシェントFCのモデルチェンジを発表し、北米市場の水素事業への継続的な取り組みを強調した形である。
現代は世界的な水素エネルギーへの移行において同社のリーダーシップを確立するため、北米での市場ポジションを強化している。専門知識と運行経験の両方を蓄積し、水素ビジネスブランドとして創設した「HTWO」を通じて、クリーンでレジリエントな水素エコシステムを構築するという。
プレスカンファレンスで同社のグローバル商用車事業・水素事業を統括する執行役副社長、ケン・ラミレス氏は、テクノロジーと信頼性、そして製造能力により量産可能なソリューションを実現し運送業界を前進させるという現代の取り組みを強調し、次のように話している。
「現代自動車はクリーンなロジスティクスを革新的なソリューションにより再定義します。優先するのは、安全性、効率、持続可能性です。ADAS機能など最新技術を活用して戦略的パートナーシップを構築し、FCEVを運行できるインフラを整備することで、急速に変化する環境のなかで運送事業者の皆様がよりスマートで持続可能な未来へ進むことを支援します」。
北米市場向けの新型エクシェントFC
現代の新型エクシェントFCは、コンセプトモデルが前回(2024年)のACTエキスポで公開されているが、今回のエクシェントFCは北米市場向けに特別に設計されたプロダクションモデルとなる。
エクシェントFCは世界初の量産型FCEV大型トラックとして2020年に発売され、商用輸送のゼロエミッション化を推進してきた。これまでに世界13カ国で導入され、ローンチ国であるスイスでは累計の走行距離が1300万kmを超えているという。
新型エクシェントFCでは燃料電池システムがアップグレードされた。2021年から北米の様々な気候や用途において厳格な試験を実施してきたそうで、こうした試験と運送事業者との継続的な連携により港湾輸送や中距離輸送など様々なニーズを満たす車両を実現したという。
新型エクシェントFCの車両諸元
FCシステム合計出力 : 180 kW
FCスタック : 90 kW FCスタック2基
バッテリーパック : 72 kWh容量
電動モーター出力 : 350 kW
モータートルク : 2237 Nm
航続可能距離 : 最大450 mi (約724 km)
水素タンク数 : 10基
水素貯蔵量 : 約68kg(タンク10基の合計)
シャシー構成 : 北米向けクラス8トラクタ
連結総重量 : 82000 lbs (約37.2トン)
また、新型エクシェントFCではドライバーの利便性と快適性を向上するためインテリアデザインを改良した。簡潔に情報を表示する12.3インチのインストルメントクラスターと、物理ボタンが追加された12.3インチタッチスクリーンなども改良点の一つで、人間工学に基づいた設計が行なわれた。
さらに、前方衝突回避(FCA)や車線逸脱警報(LDW)、ブラインドスポット衝突警報(BCW/BCW-NEAR)、スマートクルーズコントロール(SCC)など、先進運転支援システム(ADAS)機能も強化した。
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