バッテリーEVの課題にも対処
メルセデス・ベンツはサステニアで別の技術コンセプトも提案している。例えば身体に近い位置を加熱するヒーターとゾーン空調の組み合わせなど、その内のいくつかは量産化に向けた試験を行なう段階にあるそうだ。
エンジン排熱を利用できる内燃機関車とは異なり、バッテリーEVは暖房によるエネルギー消費の増加が著しく、航続距離に負の影響を与える。メルセデス・ベンツの試験では、ドライバーの体に近い所を加熱するニアボディヒーターと、部分的に空調を制御するゾーン空調によりエネルギー消費を大幅に抑えることができたという。
快適性を図るパラメータは多岐にわたるが、大雑把に言うと、外気温が「摂氏マイナス7度」という環境で従来通りの快適性を維持するのに必要なエネルギーは、新しい暖房システムでは25%少なく、「摂氏プラス5度」では50%少なくなった。
ゾーン空調によりドアの開閉によるキャブ内温度の低下が緩やかになり、足元や運転席ドア、ステアリングコラムなどは加熱され暖かいままだ。必要であればプレエアコンにより車両を事前に温めたり冷やしたりしておくこともできる。こうした運用はバッテリーをフルに活用できるため、航続距離にも良い影響を与える。
もう一つの有望なソリューションがフロントモジュールに統合された粒子捕集フィルターだ。これはドイツのフィルター技術の専門企業マン・ウント・フンメル社と共同開発したもので、タイヤ、ブレーキ、アスファルトなどの摩擦により排出されるPM(粒子状物質)を集め、車内への侵入を最小化する。
ディーゼル車の「黒煙」に代表されるように、エンジンからのPM排出は段階的に規制が強化されてきた。そのため最新の排出基準に適合した車両ではタイヤ、ブレーキ、路面との摩擦による「非エンジン排出」のほうが多くなっているとの指摘があり、欧州の次期排出基準「ユーロ7」では新たに基準が設けられることが決まっている。
自動車を電動化するとバッテリーの重量などが嵩み、車両は重くなる。車両が重いと摩擦による排出が増えるため、EV化によりかえってPM排出が増えてしまう可能性がある。
PM捕集用のフィルターは先行プロジェクトで実際の運行における効率性を確認した。オーストリアの郵便会社のeスプリンター2台に新型フィルターを取り付け、2022年8月から2023年11月まで日常業務に使用したもので、平均すると1日当たり160個の荷物を100か所に配達して約50kmを走った。累計の走行距離は両車とも3万6500kmを超えた。
車両が停止している時、充電中、時速35km未満での走行中はファンが連続稼働し、フロントモジュールフィルターでPMを集めた。その結果、車両周囲のPM10(粒子サイズが10マイクロメートル以下のPM)を55%捕集することに成功した。これを分析したところ、その内の35%は車両からの直接排出、61%は道路との摩擦や路面から巻き上げられた粒子であることがわかった。
ディーゼル車でDPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルター=エンジン排出のPMを捕集・処理する排ガス浄化装置)が必須となっているように、電動車においてもこうしたフィルターの必要性が増している。特に大気汚染が深刻な都市部ではフィルターシステムがより重要になりそうだ。
サステニアで持続可能なビジネスを実証する
サステニアに搭載したソリューションとコンセプトは、その全てが近い将来の実用化を視野に入れた量産可能なものとなっている。ルーフのソーラーパネル、リサイクル素材で作った部品、移動可能な運転席などもそうだ。
技術実証デモであるサステニアを継続して開発することは、メルセデスベンツの持続可能なビジネス戦略の一部となっている。
同社は2039年までに商用・自家用を問わず全てのバンのライフサイクル・バリューチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を目指しており、そのためには素材のリサイクルと製造・車両充電時の再生可能エネルギーの利用を進める必要がある。
メルセデス・ベンツは既にバン型車の全てに電動バージョンを設定しており、2030年までに販売の50%を占めると予想されている。工場においては2022年にネットカーボンニュートラルを達成した。メルセデスベンツ・バンズは電動化とデジタル化をリードするとともに、最も望まれているバンとサービスを提供することを目標としている。
いっぽうオノモーションの目標は都市物流の再考を通じて、都市生活の質を向上することだ。同社はマイクロモビリティ、コンテナ化、フィジカルインターネットを組み合わせ、物流をもっと効率的に、さらに持続可能にすることを目指している。電動カーゴバイクの「ONO」はドイツの様々な都市で既に使用されている。
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