イギリスの自動車メーカー、ジャガーランドローバーが電力貯蔵システムの開発を発表した。車両用としては寿命を終えた「レンジローバー」シリーズのバッテリーパックを再利用したものだ。小型トレーラに搭載する移動式電源として、EVに給電することもできる。
自動車の電動化が進む中、寿命を迎えた車両用バッテリーにどのような「セカンドライフ」を提案できるのか、自動車メーカーの課題となっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Jaguar Land Rover
EVバッテリーに「セカンドライフ」
イギリスの乗用車メーカーでインドのタタ・モーターズ傘下のジャガーランドローバー(以下、「JLR」)は2024年4月16日、エネルギー貯蔵システムのスタートアップ企業、アライエナジーと共同で遠隔地でもゼロエミッションの電力供給が可能な新型のバッテリーエネルギー貯蔵システム「BESS」を開発したと発表した。
BESSは、JLRの「レンジローバー」および「レンジローバースポーツPHEV」用のバッテリーパック7台を搭載したもので、自動車用として寿命を迎えたバッテリーを専用ラックに装着することで、定置式/ポータブル電源としての「余生」を与えた。
車両用バッテリーに高い水準が設けられ、一次寿命を終えてもエネルギー貯蔵(蓄電)用としてリユース可能な品質を保ち、バッテリー再生のために追加の処理は必要ないという。
BESSはイギリスの一般家庭の約1カ月分の使用電力に相当する270kWhの電力を蓄えることができる。JLRは太陽光発電の余剰電力を一時的に蓄えておく「バッファ」や、トレーラ(被けん引車)に搭載してEVにも給電可能な移動式電源とする活用法などを提案している。
JLRがバッテリーの「セカンドライフ」(2次寿命)を模索するためレンジローバーシリーズのバッテリーを活用するのは、BESSが初めての試みだ。
自動車メーカーが開発しただけあってCCS充電方式に対応する。そのため、既存のPHEV・BEVはCCSプラグを差し込むだけで充電でき、レンジローバースポーツPHEVなら9台を同時に充電可能だという。
また、電源を移動可能とすることの利点は電力網に接続されていないオフグリッドでも再生可能電力が利用可能になることだ。
自動車業界はこれまでイベント会場や車両の試験などオフグリッド環境で電力が必要な時にディーゼル発電機を利用してきたが、JLRのエンジニアリングチームは2024年後半に発売予定の新型レンジローバー・エレクトリックの試験にBESSを活用しているそうで、同社においては車両開発のゼロエミッション化も担っている。
典型的なディーゼル発電機は1時間当たり16リットルの軽油を消費し、1日に合計3時間利用すればCO2の排出量は129.12kgとなる。年間で120日発電機を利用すると、CO2排出量は1万5494kgに達する。これは飛行機でロンドン・ニューヨーク間を7往復した場合の一人当たりの排出量に等しいそうだ。
ディーゼル発電機に代わってBESSを活用すればその分のCO2を削減できる。
軽量トレーラとしてポータブル電源に
BESSは重量が3.5トン未満に抑えられた汎用の設計となっており、ポータブル電源としても定置式電源として活用できる。
例えばJLRの販売店の多くはソーラーパネルを導入しているが、発電量が過剰となった場合に一時的に電力を蓄えておくバッファとして活用することなどが考えられる。もちろんJLR以外での商用利用も可能だ。
実際にBESSがどのように活用できるかは、JLRのエンジニアリングチームによるレンジローバー・エレクトリックの開発が参考になるだろう。車両の長期耐久試験は公道からかなり離れた地方で行なわれており、利用できる電力にも制限があるため、低速での充電しかできなかった。
エンジニア達は、車両をテストしている間に(低速で)BESSを充電し、車両への充電が必要になったらBESSから急速充電することにした。これにより車両の充電に必要な時間がはるかに短くなり、レンジローバー・エレクトリックの試験は通常よりずっと早く完了しそうだ。
JLRは「リイマジン」戦略の一部で包括的なEVエコシステムの構築に150億ポンド(約2.9兆円)を投資する。EV用バッテリーのライフサイクル全体を再考するのもその一環となっており、エネルギー貯蔵はJLRが模索している新しい循環型ビジネスモデルの一つだ。
バッテリーのバリューチェーンは2030年にかけて毎年30%という急速な成長が続き、全世界での市場規模は60兆円に達すると予想されている。BESSのようなバッテリーのセカンドライフだけでも年間200GWh、5兆円という市場が形成される。
電動化が進展するなか、車両用として寿命を終えたバッテリーにどのような価値を生み出していくか、自動車メーカーにとっては重要な課題だ。
JLRは車両用バッテリーに高い水準を設定することで、車両用としての要件を下回り寿命を終えたバッテリーであっても、他用途では安全に活用できるようにした。通常、利用可能な容量が70~80%に低下したバッテリーも安全にデプロイできるという。
また、JLRはこうしたリユースに続いて、真の循環経済を実現するため、バッテリーの原材料を回収して再利用できるようにリサイクルにも取り組んでいる。
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