実質オールジャパン開発の軽BEVバン
軽BEVバンは、CJPTが同様に企画し、スズキ、ダイハツ、トヨタが共同開発するクルマだ。軽商用車は、国産メーカーではスズキ、ダイハツのみ開発・生産しているので、事実上「オールジャパン体制」での取り組みといえる。
軽BEVバンでは、軽自動車メーカーのこちらもツートップであるスズキ、ダイハツが築いてきた小型車技術に、トヨタの電動化技術を組み合わせ、軽商用車に最適なBEVシステムを共同開発する。
あくまで推測だが、車両ではなく「BEVシステム」という言葉を用いているので、既存の軽商用車をBEV化するためのバッテリー電動パワートレインを開発するのかもしれない。
全商用車保有台数の約60%を占める軽商用車は、電動化によるCO2排出削減効果も大きい。しかしBEV化は、車両価格のアップに加えて、充電用設備のコスト負担や長い充電時間など、導入・運用での重い負担が課題だ。そのため、BEVシステムの共同開発では、ユーザーの使い方への対応と価格の抑制を図るという。
イメージ写真は未発表だが、発表原文の「ラストワンマイル配送(戸口配送に相当する物流領域)を支える商用バン」という業務には現在、スズキの「エブリイ」、ダイハツの「ハイゼットカーゴ」などの軽ワンボックス車が用いられている。福島・東京での社会実装でも、ラストワンマイル配送で導入される予定だ。
FCEV・BEV専用EMSも新開発
小型FCEVトラック、軽BEVバンの社会実装では、電動車というハードウェアとともに、新たに構築した「エネルギーマネジメントシステム」も導入される。
この「エネルギーマネジメントシステム」(EMS)は、水素スタンドが限られるFCEV、同じく充電スタンドが限られかつ航続距離が短いBEV、さらに充電施設がある事業所での電力使用ピークの偏りなど、実際の運行時で顕在化する課題に対応するものだ。
すでに物流業界では、IT(いまや少し古い表現だが)によって運行ルートの最適化や集荷・配送を効率化し、「運行三費」の最大要因である燃料費用を節約するため、様々な「運行管理システム」が使われている。
新たに構築するEMSには、FCEVの水素残量あるいはBEVのバッテリー充電率などから、補充填または補充電のタイミングや配送計画を、運行管理データと連携させて最適化する機能が備えられる。
また、荷主や物流事業者の配送計画や事業所の電力利用を考慮して、電動車に対する施設内充電および経路充電のタイミング、その充電量の最適化などで、使用電力のピークを均すようなシステムも構築されるという。電力不足が現実となっている今、BEVをフリート運用する上で見逃せないところだ。
今回の社会実装では、小型FCEVトラック、軽BEVバンだけではなく、トヨタ・日野が共同開発した大型FCEVトラック、さらに小型BEVトラックも投入され、幹線輸送からコンビニ配送、ラストワンマイル配送まで行なう計画だ。そのためEMSの機能も、様々な物流の領域で確かめられることになるだろう。
福島で60台の小型FCEVトラックを運行
福島県とトヨタでは、一年前の21年6月に「水素を活用した未来のまちづくりに向けた検討を開始」のタイトルで、社会実装に向けたリリースが先行して発表されているが、今回の発表では、いわき市と郡山市で約60台の小型FCEVトラックを運行することが明らかにされ、大型FCEVトラックも運行予定という。
いわき市と郡山市では、前述のEMS、特にFCEV用のEMSも構築される。大量のFCEV運行に対応するため、域内に設置される水素ステーションの使用状況から、ステーション内での最適な配置やオペレーションの条件を提示する機能が備えられる。これは、ステーション内での充填待ち渋滞の回避と、FCEVがステーションへ移動する時間を最小化するものという。
2030年代は、FCEVやBEVが本格的にクルマの主役になるといわれている。社会実装は、その有用性と課題の洗い出し、解決のためのノウハウを「実戦」から蓄積していく場となる。それは自動車の歴史のダイナミズムを、じかに目にする機会にもなるかもしれない。
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