尿素フリーに固執したことが遠因か? 排ガスレベル未達が誇り高きエンジニア達を狂わせた!! 【日野自動車不正問題】

不正問題の背景にある「HC-SCR」という革新技術

 さて、ここまで事実関係を元にお伝えしてきたが、ここからは私見を交えて今回の不正問題の背景に迫ってみよう思う。

 今回の不正問題は「排ガス不正」と「燃費不正」の2つになるが、時系列で見ていけばHC-SCRを採用したエンジンの排ガスレベルの未達が今回の不正問題のそもそもの発端である。

 技術的なことなので「不正問題」の報道では完全にスルーされてしまっているが、この「HC-SCR」にはもっと着目すべきではないかと思っている。

 いささか推理が過ぎるかもしれないが、今回の「不正問題」の遠因として浮かび上がるのが日野のHC-SCRへのこだわりで、あまりにもHC-SCRに執着しすぎたため、エンジニアたちは引っ込みがつかなくなり、最後は不正に手を染めてしまったのではないかと思えるのだ。

日野レンジャーのHC-SCRシステム(DPR-Ⅱ)。手前の第1マフラーにPM浄化触媒(DPF)、奥の第2マフラーにNOx還元触媒(HC-SCR)を配置する
日野レンジャーのHC-SCRシステム(DPR-Ⅱ)。手前の第1マフラーにPM浄化触媒(DPF)、奥の第2マフラーにNOx還元触媒(HC-SCR)を配置する

 あらためて解説すると、HC-SCRとは、低馬力仕様の日野レンジャーや日野デュトロ(N04C型エンジン)に採用されている尿素を使用しないNOx還元触媒のことだ。

 ご存知のようにディーゼル車の排出ガス低減システムとしては「尿素SCRシステム」が世界の主流になっているが、HC-SCRは尿素を使わず燃料(軽油)を還元剤としてNOxを低減するというもの。

 尿素SCRシステムは、尿素水からアンモニアを発生させ、アンモニアがNOxと化学反応することで無害な窒素と水に還元させるが、HC-SCRは、軽油から分解生成したHC(ハイドロカーボン)や排ガス中の未燃焼HCを還元剤としてNOxを無害化する。

 こうしたNOx還元触媒と、PMをフィルターで集積させ燃焼を行なうDPF(日野はDPRと呼ぶ)を組み合わせた排ガス後処理装置が近年のディーゼル車には搭載され、クリーンな排気ガスを排出するものとなっている。

 HC-SCRは、2014年には「第11回新機械振興賞 経済産業大臣賞」「2013年度日本機械学会賞(技術)」「第64回自動車技術会 技術開発賞」「平成25年石油学会 学会賞(工業的)」を立て続けに受賞。技術的に高い評価を受けていたことがわかる。

 日野は、2010年4月に発表された日野レンジャーにポスト新長期排ガス規制(平成22年規制)適合への対応技術の切り札としてこのHC-SCRを初採用(新DPRと呼称)。さらにポスト・ポスト新長期排ガス規制(平成28年規制)に際しても、新DPRを改善したDPR-Ⅱとして継続採用している。

 尿素を使用しないHC-SCRには、さまざまなメリットがある。まず、アドブルーと呼ばれる尿素水を定期的に供給しなくてもいいので、アドブルー代も省けるし、その手間も不要。インフラが未整備な発展途上国の車両にも採用できる。

 また、尿素SCRシステムより安価で軽量・コンパクトに搭載できることも大きなメリットだ。

 ただし、ポスト新長期排ガス規制の時点でも、尿素SCRに比べて、NOxの削減率は30~40%と低く、触媒の耐久性にも課題があり、燃料経済性も若干劣るとされてきた。

尿素SCRの優位とHC-SCRの真実

 ここで、中型トラックを運転し九州一円で集配業務に携わっているベテランドライバーの理絵さんの話をご紹介する。

 「去年の4月から新型日野レンジャーの4tに乗っているのですが、これがまた馬力がないというのかなんというのか……。低馬力仕様はアドブルーを入れなくて良いので手間はかからないのですが、何せ荷物を積むと走らない(泣)。峠はもちろん、皆様に多大なるご迷惑をお掛けして走行しております。

 その前に乗っていたいすゞのフォワードは、たしか現在乗っているレンジャーと数字上の馬力は同じだったと記憶しているのですが、メーカーが違うとこうまで走りも違うのかと試行錯誤しながら乗りこなそうと頑張っています(笑)。

 馬力が同じでも燃費は随分と違って、フォワードの時はトラックの燃費計でデジタコを気にして走っていれば、1リッター当り7km後半から8km前半くらいは普通に出ていました。

 レンジャーはというと、5~6km半ばという、アドブルーのぶんを差し引いても屈辱的な数字を表示してきます。私は事務方もしているので、月間の燃費などの集計もしているのですが、やはり大体の数字は合っているようです」。

 理絵さんの話は、もはや市場ではHC-SCRが競争力のない技術になっていることを物語っていないか。ちなみに日野は、2017年5月に発売したポスト・ポスト新長期規制対応の日野レンジャーに際して、A05C型エンジンに尿素レスのHC-SCRとともに尿素SCRも用意している。

 普通、こんなことは考えられないことで、日野自身もHC-SCRが時代遅れになってきていることを認識していたのではないか。

 正直に言えば、2017年のフルモデルチェンジの時点でHC-SCRは継続採用されるべきではなかったのではないかと思う。定期的にアドブルーを供給しなくてはならないとしても、尿素SCRの優位は今日では決定的だからだ。

尿素フリーのA05C型エンジン。HC-SCRは低馬力仕様の日野レンジャーに設定されている
尿素フリーのA05C型エンジン。HC-SCRは低馬力仕様の日野レンジャーに設定されている

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