2005年の名神高速下り線多重衝突事故では7名の方が亡くなった。2012年の関越自動車道バス事故では乗客7名が死亡し、乗員乗客39名が重軽症を負う惨事となった。両事故に共通するのは、逮捕されたドライバーがSAS(=サス、睡眠時無呼吸症候群)と診断されたことだ。
SASは居眠り運転を引き起こす危険性がある上、治療をせずに放置すると高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞等の合併症の恐れもある。これらの疾病は、運転中の突然死にも繋がる健康起因事故の主原因でもある。
トラックドライバーをはじめとする自動車運送事業者にとってSAS対策の重要性は言うまでもないことだが、いまだに事故を起こした後になって「実はSASだった」と判明するケースが少なくない。
国土交通省や全日本トラック協会(全ト協)は「ドライバー全員にSASスクリーニング検査を」と呼びかけている。しかし、「SAS対策はむずかしい」と考えて検査に踏み切れない事業者や、検査後のフォローができない事業者も多い。
SASであることに気づかず(あるいは隠して)運転業務を続けることが、最も危険な状態であり、避けるべきことだ。職業ドライバーを襲うSASの実態と対処法を追った。
文/フルロード編集部 写真/フルロード編集部・いすゞ自動車 イラスト/ゆいてゃん。
【画像ギャラリー】たかがいびきじゃない!? 早めの検査でSASの治療を!(9枚)画像ギャラリーSASとは
SAS(Sleep Apnea Syndrome)は睡眠中に何度も呼吸が止まったり、止まりかけたりする病気のことだ。質の良い睡眠が取れない状態が続くと、強い眠気や疲労等に襲われたり、運転中に突然意識を失うような睡眠に陥ることもある。
症状としては、「大きないびきをかく」「睡眠中に呼吸が苦しそう、息が止まっていると指摘される」「息が苦しくて目が覚める」「朝起きた時に頭痛がある」「昼間に集中力が続かない」「運転中に眠くなる」など。
ただ、主症状として必ずしも眠気を感じるわけではないという点に注意が必要だ。中等度・重度のSAS患者においても強い眠気を感じる人が少ないことが示されており、自覚症状に頼らず、客観的な検査を受けることが重要だ。
多くの研究でSASと交通事故の関連が明らかになっている。SAS患者は、短期間に複数回の事故を引き起こすことが多く、重度のSASでは交通事故のリスクが約2.4倍とされる。
また、生活習慣と大きく関連があり、とくに肥満はSASの発症・悪化に強く影響するほか、アルコール・喫煙はSASを悪化させる。SASを治療しないで放置すると高血圧、糖尿病、不整脈、脳卒中、虚血性心疾患などの危険性を高めるため、健康起因事故にも繋がりかねない。
日本では、男性トラックドライバーの7~10%、女性トラックドライバーの3%が中等度以上のSASと見られている。
スクリーニング検査
SASと診断されても、適切に治療すれば安全運転を続けることができる。しかし国交省が行なったアンケート調査(令和2年度)では、従業員にSAS検査を受診させている事業者は約3割にとどまった。
主にドライバーを対象としたSASスクリーニング検査は、SASの確定診断のための精密検査が必要かどうかを判断するためのもの。自宅でできる簡単な検査なので医療機関まで行かなくてもよく、低負担で検査が受けられる。全ト協および都道府県トラック協会の助成対象にもなっている。
具体的な手順としては検査機関から機材が配布され、検査対象者が自宅で装着・計測する。機材を返送し、検査データに基づき医師が精密検査の必要性を判断する。
医療機関での精密検査でSASの確定診断となれば治療を行ない、正常値および軽度の睡眠呼吸障害であれば生活習慣の維持・改善を心掛けることになる。
スクリーニング検査の基本はドライバー全員を対象に実施すること。しかし、予算や人数など一度に実施するのが難しい場合も多く、「事故が多い」「長距離走行がある」「肥満」などリスクの高い人から優先順位を決めておくことも重要。
中長期的な計画書を作成し、3~5年に一度を目安に検査を実施する。