遅い! 前が見えない! 抜かせない! リミッター走行の大型トラックにプロドライバーが物申す!!

遅い! 前が見えない! 抜かせない!  リミッター走行の大型トラックにプロドライバーが物申す!!

 日本の物流は、高速道路という大動脈を血液のようにながれているトラックが支えているといっても過言ではない。高速道路はいわば、トラックドライバーたちの職場とえる。

 いっぽうで高速の走行車線と追い越し車線をスピードリミッターのある大型同士が伴走し、渋滞を招くケースも頻繁に見受けられる。

 そうした状況を踏まえプロのトラックドライバーとしてできることは何か? 現役ドライバー兼ジャーナリストの長野潤一が切り込みます!

文/フルロード編集部・長野潤一 写真/フルロード編集部

※フルロード第5号より抜粋

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大型車へのリミッター導入の前と後

 平成15年9月、大型トラック(総重量8トン以上)に90km/hのスピードリミッターが導入された。3年後の平成18年、使用過程のトラックにまでリミッター装着が徹底され、それまでのトラックのスピード時代は終焉を迎えた。

 それまでのトラックは、出す気になれば130〜140 km/hは出せていた。導入直後は遅いのがもどかしく、リミッターが作動するギリギリで走るトラックが多かった。

車両総重量8トン以上、または最大積載量5トン以上の車両に義務付けられている速度抑制装置
車両総重量8トン以上、または最大積載量5トン以上の車両に義務付けられている速度抑制装置

 現在はというと、エコドライブ、コンプライアンス(法令順守)の観点から80 km/hで走るクルマが増え、制限のない中小型トラックでも80 km/hでも走行するのが見られる。

 昔のほうがすべてよかったかというと、そうではない。やはり80〜140 km/hの差があった当時は危険だった。スピードゆえの横転事故や追突事故も多かった。

 当初、リミッター導入には賛否両論あった。反対論は、労働時間が増える、休憩時間を取り過ぎる(寝過す)とスピードで取り戻すことができなくなる、などだ。

 重大事故からドライバーの命を守るリミッターだが、眠たくても余計には休憩できないなど、より過酷な環境を招いている現実もあるのだ。

デジタコが普及した現在は、大型車以外でも速度制限を独自に設け管理する運送会社も多い
デジタコが普及した現在は、大型車以外でも速度制限を独自に設け管理する運送会社も多い

リミッター走行の弱点 大型車が道路を塞ぎ後ろに長蛇の列

 また、リミッターにも道路が混むという難点がある。高速道路の2車線区間で、大型車同士が延々と車線を塞いで、後に長蛇の列ができるという光景をよく目にする。

 後方では、速い乗用車は追越車線に並ぼうとするから、走行車線が空き、よって、走行車線から追い越し前に割り込もうとするクルマなども出て、大変危険だ。

 要するに、長時間をかけた追い越しは、交通の流れをせき止めてしまうことになる。

大型車同士が並走し道を塞ぐ光景は高速を走行していると頻繁に遭遇する
大型車同士が並走し道を塞ぐ光景は高速を走行していると頻繁に遭遇する

 車線をふさぐことは、乗用車に対してだけではなく、同業者であるトラックにも危険を与える。

 速いトラック、遅いトラックがあり高速の運転は、ほぼ追い越しの連続といってもよい。しかし、速度差が小さく、一気に加速できないトラックにとって、追い越し自体が難しくたいへんなことである。

 それなのに、前をふさがれたら、自分のペースを乱されるばかりでなく、行き場を失い事故の危険性だってある。

 追い越しはある程度の速度差をもって、すみやかに行なうべし。追い越しの速度差は何キロぐらいが適当かというと、10〜20 km/h差であろう。1 km/hというのは論外だ。

大型貨物自動車の通行区分がある区間は、そもそも大型車は追越車線などを通行できないようになっているので注意が必要
大型貨物自動車の通行区分がある区間は、そもそも大型車は追越車線などを通行できないようになっているので注意が必要

新しいルールを!! 巡航速度プラスマイナス5km/hの走り

 3車線の高速道路も昔に比べれば増えたが、だからといって併走をしてもよいわけではない。プロ意識をもって、交通のスムーズな流れに協力し、他車の手本となるような運転をこころがけるべきだ。

 その方法は以下のとおり。

1.追い越す側は、普段からリミッター限界で走らずに、追い越し時に5 km/h程度加速。

2. 追い越される側は、オートクルーズを解除しスピードを緩める。2〜3 km/h落としただけでもだいぶ追い越しやすくなる。

3.前車との速度差が僅差であるときは、すぐさま追い越しに入らず、車間距離をとって追走し、道路がすいた段階で追い越しをかける。

4.中央道、山陽道などでは起伏があるために、道路がすいていてもトラックが集中した集団ができやすく、玉突き衝突の原因ともなる。集団付近にあっては車間距離をとり、つとめてすいている場所を走るべし。

5.運行管理側も「タコグラフは速度一定が最高」という意識を改め、ペース一定の中にも、「『速度のゆらぎ』は安全のために必要」に認識を変えるべき。

 要するに、ただ淡々と同じ速度で走るのがエライのではなく、周囲の状況に合わせ臨機応変に速度を調整し、仲間や乗用車の安全も確保するという考え方に変えなければならないということ。

 速度にメリハリをつけるということは、道路が混み合ってギッチリ詰まっている状況では、追い越されたクルマに追いついたり、追い越したクルマに追いつかれたりすることになる。

 そのへんはプロとして、他のクルマと交錯しないように気を付けなければならない。

混合交通が基本となる日本の道路。渋滞や事故を防ぐためにもプロとして周囲に状況に合わせた運転が必要だ
混合交通が基本となる日本の道路。渋滞や事故を防ぐためにもプロとして周囲に状況に合わせた運転が必要だ

 また、こうした走りをトラック全部がするという社会はほど遠いかも知れないが、半分でもするようになれば、状況の8〜9割は改善される。

 巡航速度は一定で、プラスマイナス5km/hというのが基本だ。交通の混雑する現下にあっては、中型免許以上取得のカリキュラムにもそうした知識を盛り込むべきであろう。

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