あまり脚光は浴びないものの、世の中には人知れず功績を残したモノはたくさんあります。たとえば空気入りタイヤもその1つではないでしょうか。空気を封じ込めたタイヤは車重を支え、路面からの衝撃を和らげ、そしてタイヤ自身の寿命を延ばしています。
時代と共にタイヤはこれからも進化していくのでしょうが、その陰で空気入りタイヤの進化を支えているパーツもあります。それがバルブコアです。バルブコアは通称「ムシ」と呼ばれ、本来なら大いなる賞賛を浴びてもおかしくない素晴らしいパーツの1つです。
全長約20mm、直径約5mm、重さ1gのとても小さなパーツですが、空気を充填するニューマチックタイヤとは、切っても切れない関係なんですね。バルブとは、液体や気体の出入り口を開閉によって調節する弁、コアとは物の中心部、核という意味なので、和訳をするならば弁の核といったところでしょうか?
そのバルブコアの重要性について、現役のタイヤマンに解説してもらいました。
文/ハマダユキオ 写真/ハマダユキオ
2020年12月発売トラックマガジン「フルロード」第39号より
【画像ギャラリー】この部品がないとタイヤは役目を果たさない……小さいけれどムシできない『バルブコア』とは!?
■「ムシ」と通称されるバルブコアとは?
バルブコアは正式名称なんですが、長年この業界(整備も含む)にいる方々は「ムシ」のほうに親しみがあるかもしれません。なぜバルブコアはムシと呼ばれているのでしょう? まぁ薄々わかっていると思いますが、「見た目」なんですね。
でも、現在主流になっているバルブコア(画像参照)からはムシのイメージは付きにくいのではないでしょうか。実は現在主流のタイプは短くなっていて、その昔は全長の長い「ロングタイプ」でした。
現在のバルブコアはパーツの一部であるスプリングがバルブコア本体に内蔵されており、全長が短めに作られております。それに対しロングタイプは同じ役目のスプリングがむき出しになっているため「ムシ」に見えるのだと思います。
■バルブコアを構成するパーツ
バルブコアを構成するパーツは全部で7つ。すごく精巧に作られた小さなパーツが本体部分とバルブ本体にねじ込まれ、バルブ本体に固定するネジの部分、エアを供給し放出を防ぐバルブ部分、そしてそれを制御するスプリングで構成されております。
本体の材質はステンレスです。ステンレスは身近でよく使用されている金属ですね。鉄にクロムを含ませた合金鋼で、腐食に対する耐性が強い金属です。
シール部分はPTFE、シリコンゴムです。PTFEとは「ポリテトラフルオロエチレン」という数回聞いただけでは覚えにくい名前なんですが、要は「テフロン」です(テフロンは商品名でフッ素樹脂一般の呼称だそうです)。
で、このPTFEは耐熱性、耐薬品性に優れていて、現在発見されている物質の中で最も摩擦係数が小さい物質なのです。PTFEが使用されている部分はバルブ本体とバルブコアをシールしている部分です。
バルブコアはバルブ本体にねじ込まれて固定されますが、固定されるまでシール部分がバルブ本体に接触しながら回転します。その際に摩擦の大きなシール材ですと抵抗でよれて使い物になりません。そこでこのような摩擦係数の小さい物質が使用されているんですね。よく考えられていますね、スゴいな~。
シリコンゴムはバルブコアのバルブ部分のシールに使用されています。このバルブコアは、トラック・バスはもちろんのこと、乗用車や二輪車、特殊車両(ショベルやフォークリフト他)等、さまざまな車両で共通で使用されております(ラフタークレーン等も大きさが違いますが、構造は同じです)。
普段は決して姿を見せることはなく、エアを補充・充填する際にはエアを快く受け入れ、そして一度タイヤへ充填されたエアは放出しないように門番としての仕事をまっとうしています。そのお陰でタイヤの空気圧は正常に保たれ、さまざまな車両の安全運行に貢献しているのでございます。
トラック・バス用のタイヤは小型~大型まで空気充填圧が非常に高く、使用環境も非常に過酷でして、当然ながらそこに使われているバルブコアも過酷な環境での使用となります。車両に氷柱ができるような極寒から、路面温度が65℃を超える夏場まで、タイヤの内圧を維持してくれています。
仕様スペックの一部を取り上げるならば、使用温度範囲は耐熱・耐寒仕様でマイナス54℃~140℃、最大使用圧力は1.5MPaと、極小なパーツでありながら、なかなかの高スペックのイケてるパーツなんでありますよ。
現在のバルブコアが短くなった理由として、トラック・バスに限らず、さまざまなホイール形状に対応するためだと思われます。
トラック・バスのジャンルで考えるならばチューブタイプが主流の頃はバルブ本体の長さもかなり長く、ロングタイプのバルブコアでも支障はなかったのですが、チューブレス化でバルブ本体が短めになり、アルミホイールの出現やISO(新)化でさらに短くなってきています。