ベテランのトラックドライバーは最新車両から旧型車まで、様々なトラックを安全に乗りこなす。AIによる「仮想ドライバー」にも同じことが可能だろうか? 経験を通じて未知の状況へ対応する能力を「汎化」と呼ぶが、車両のプラットフォームを超えた汎化は自動運転システムの開発で最も困難な課題とされる。
米国のAIスタートアップ・ワービは昨年、高速道路で学習した仮想ドライバーが一般道にも対応する「運転環境の汎化」を実証した。この度、ピータービルト「579」からボルボ「VNL」へ、AIによるトラックの「乗り換え」を行ない「プラットフォームの汎化」を検証した。
メーカーもグループも異なる車両は、搭載するセンサーや制御システムまで別物となるが、結果としては追加学習どころか微調整さえ必要とせず、「最初の1マイルから」完璧に運転できたという。同社は自動運転システムのみならず、フィジカルAI全般の基盤となる成果だとしている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Waabi・AB Volvo
「AIトラックドライバー」が新たなフロンティアに
米国のスタートアップ企業・Waabi(以下、「ワービ」)はフィジカルAIによる自動運転の実現を目指している。
フィジカルAIとは、機械(ロボット)がセンサーやカメラを通じて現実世界を認識し、人工知能(AI)によって自律的に行動する技術のことだ。いわば生成AIに物理的な身体機能を統合する技術で、自動車のような機械であっても人間のように柔軟な行動が可能になるとされる。
それを実現するためには、人間と同等、あるいは人間を超えるレベルで「汎化」できるシステムが必要とされる。AIの学習において「汎化」とは、学習データの中から広範囲に適用できる本質的な特徴量を見つけ出し、訓練データに含まれない未知のデータに対しても正しく予測・判断できる能力のこと。
つまり、AIが事前に学習した知識により、未知の状況においても安全性と信頼性を確保できるシステムが、フィジカルAIによる自動運転には必要となる。
ワービによると、自動運転分野における汎化には大きく二つの領域があるという。一つは環境や行動における汎化で、例えば高速道路のデータで訓練したAI(仮想ドライバー)が、密集した市街地など様々な交通パターンでも安全に運転できる能力を意味する。
ワービ・ドライバーは2025年に高速道路から複雑な一般道でも安全に運転できることを示しており、この領域では人間のように柔軟な推論能力を持っていることを実証した。
もう一つの領域は、形態を横断する汎化で、異なる物理的プラットフォームにシームレスに移行できる能力を意味する。例えば、人間のドライバーが別のメーカーのトラックに乗り換えても同じように運転できるように、仮想ドライバーが異なるセンサーや制御システムに対応し、同じように運転する能力がこれに当たる。
いきなり「ゼロショット汎化」を達成
プラットフォームを横断する汎化は自動運転システムを開発するにあたり、特に困難な課題で、これまでのシステムは車両ごとに大規模なエンジニアリングが必要だった。
あるメーカーのトラックで学習したAIに、別のメーカーのトラックを運転させるにはトレーニングと検証をやり直す必要があった。車両(ハードウェア)と自動運転システム(ソフトウェア)は事実上結びついており、切り離すことができなかった。
しかし、人間のドライバーはクルマが変わるたびに教習所に通い直したりしない。人間と同等の汎化性能を持ったフィジカルAIなら、同じことができるはずだ。ワービ・ドライバーは、当初から異なるプラットフォーム(センサー、制御システム、物理特性など)に対応できるように設計されている。
これを実証するため、ワービは全く新しいプラットフォームに仮想ドライバーを統合することにした。ピータービルトの「579」大型トラクタから、ボルボの「VNL840」への、AIドライバーの「乗り換え」である。なお、VNLは2024年のフルモデルチェンジでプラットフォームから新しくなったボルボの最新型トラックだ。
その結果は予想を超えるものとなった。AIは「ゼロショット汎化」を実現したのである。
つまり、新しいデータによる学習や追加学習、シミュレーション、ファインチューニング(微調整)を一切必要とせず、ワービ・ドライバーは最初の1マイルから未知のトラックを完璧に運転することができたのだ。まるで人間のドライバーのように、仮想ドライバーは高速道路と一般道の両方をスムーズに自動運転したという。


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