チェコのタトラといえば、ダカールラリー・カミオン部門の古豪かつ日野チームスガワラのライバルの一つでもあるトラックメーカーだ。卓越したオフロード走破性をもつユニークな総輪独立懸架シャシーは、軍用・民生用問わず重宝されているが、そのタトラもついに燃料電池(FC)トラック「フォースE-ドライブ」の開発に着手している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/TATRA Trucks
特殊用途向け大型トラックに燃料電池
タトラの大型FCトラック「フォースE-ドライブ」の開発は、チェコ技術庁の助成を受けながら、同社と国立原子力研究機関(UJV Rez)、デヴィン社、プラハ化学技術大学、ジェシュ研究センターの5者が共同で取り組んでいる産学官プロジェクトだ。
興味深いのは、このフォースE-ドライブのベースとなっている「フォース」が、消防車や油井作業車両、軍用車両といった特殊用途向けに設計されたヘヴィデューティモデルであること。2023年10月に公開されたプロトタイプ車は、公道外車両の「鉱山用ダンプ」を想定しており、実際にダンプボディを架装する。
プロトタイプ車は、日本ではあまり見られない前1軸・後3軸の8×6駆動シャシーで、リアの最後軸以外は駆動軸である。最後軸は非駆動だがエアサス付きで、リアステアリング機能とリフトアクスル機能が備わっている。車両総重量(GVW)は44トン(自重+乗員+燃料+フル積載状態)にも達する。
もっともGVW44トンの鉱山用ダンプは、ヘヴィデューティーで特殊なクルマではあるが、タトラ以外の大型トラックメーカーでもシャシーを生産している。それでもタトラが特別な理由は、ユニークな総輪独立懸架シャシーをもつからである。
ユニークなタトラ・トラックシャシー
タトラのトラックには、「チューブラー・セントラル・バックボーンフレーム」と呼ばれるセパレート型フレームおよび総輪独立懸架で構成されたシャシーが、設計一新を繰り返しつつ100年間にわたり、今も採用されている(プラガから生産を移管したモデルを除く)。
チューブラー・セントラル・バックボーンフレームとは、1本の円筒をバックボーン(背骨)フレームとした形状で、この世の大多数のトラックシャシーが使っているラダー(はしご)フレーム型とは、まったく構造が異なっているのだ。
このバックボーンフレームに、エンジンとトランスミッション、トランスファ(副変速機)、プロペラシャフト、デファレンシャルギア、スイングアクスルを結合し、キャビンや荷台をマウントするストラクチャーフレームを載せたのが、タトラのトラックシャシー構造である。
スイングアクスルとは、車軸をスイングアームで支持する独立懸架の形態のひとつで、各輪のホイールストロークが大きく、優れたロードホールディング性が得られる特徴がある。しかも路面に凹凸があっても、クルマの重量を1輪ずつ的確に分散できるため、大重量でも道路を傷めにくい。そして前後輪を駆動すれば、高い走破性が発揮できる。
これらの特徴から、タトラのトラックシャシーは民生用のみならず軍用にも使われ、さらに装輪式の装甲車や自走砲にも活用されている。
フォースE-ドライブは、このユニークなシャシーに、FCパワートレーンを組み合わせているのである。
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