さて、せっかくIAAの会場に来たのだから、明日からの取材の予習をすべく、もう少しじっくり会場の下見をしよう、幸い会場にはフリーパスで入れるみたいだし……、と思っていたのですが、仕事熱心なはずのプレス一行は、あっさりスルーし、会場の裏手の広大な駐車場方面へ。エッ!? なに? どこへ行くの?
連れていかれたのは、ラーツェンにあるハノーバー航空史博物館というところ。実は、一行の中にかなりの航空機マニアがいて、IAAの会場のすぐそばにある航空史博物館見学を「すきあらば!」と狙っていたらしいのです。しかもこのプレス一行は、トラックも好きだけど飛行機も大好き!という連中ばかりで、「お~、いいじゃん! そこ行こ行こ!」となったらしいのです。な~にが仕事熱心なプレス一行だ!? もろ観光じゃん! ちなみにキャップは、特に飛行機が好きというわけではないが、一緒に行くのはやぶさかではない、異国で仲間外れはイヤだし……くらいの感じだったんですが、そこにはマニアとの圧倒的な温度差・距離感の違いがあることを後々イヤというほど知ることになります。
ハノーバー航空史博物館の道しるべとなる古いジェット戦闘機のモニュメント
IAAの会場から歩いて15分ほど。ハノーバー航空史博物館にたどり着きました
ハノーバー航空史博物館は展示面積3600㎡で、36機の航空機と30基のエンジンが展示されています。航空機はほとんど小型機なので、それほど大きな博物館ではありません。一般の人なら、ものの15分くらいで見て回れるはずです。ただし、収蔵点数は4500点以上あり、たとえばその時代時代のパイロットの服装やカバン、日記、書類、使っていた馬車や自動車などなど、非常に几帳面に細かく展示しています。まさにドイツ人の気質を体現したような博物館で、この博物館をつくり管理・運営している人たちの飛行機への並々ならぬ思いが感じ取れます。ただ、展示されている航空機は戦前・戦後の古い時代のものばかりで、展示品もかなり埃っぽいので、前述のとおり、マニアックな資質のない一般人のキャップは15分で一通り見て回りました。
展示面積は3600㎡。さほど大きな博物館ではありません
ほとんどが小型機で、その数36機
しかしながら収蔵点数は4500点以上! 一般人にはガラクタ(失礼!)にしか見えないけれど、マニアの人たちにはお宝なんでしょうね
古いジェット戦闘機の上でポーズを取るマニア氏ことC出版のМ編集長。普段は敏腕エディターとして知られていますが、もうニヤケっぱなし!
ところがプレスご一行様は、ある展示品の前で足を止めたまま全然動きません。なんか古びたエンジンを前に「ああでもない」「こうでもない」と言っています。しょうがないので、また一回りして戻ってきましたが、まだ同じエンジンにへばりついたまま離れようとしません。
その中心にいるのがディーゼルエンジンをこよなく愛する我らが多賀まりお氏で、航空機マニアにエンジンマニアが加わり、マニア垂涎の的になっているのがユンカースの「Jumo205」というエンジンらしい。昔の航空機のエンジンは、シリンダを放射状に配置した星型エンジンが主流だったことは知っていたけど、聞けばこの「Jumo205」は、それとは全く異なるエポックメークなエンジンだそうで、まず驚いたのがディーゼルエンジンだということ。しかも対向ピストン2サイクルディーゼルエンジンなんだとか。といっても、ポルシェやスバルの水平対向エンジンの親戚かなんかか? といったぐらいの感慨しか浮かばないが、それとはまったく別物で、上下にクランクシャフトが2本あり、それを1本の同じシリンダ内で各々のピストンを動か
すという、高性能を極めようとして開発されたエンジンらしい。ちなみに16.62リッター6気筒600馬力の由。1934年に初飛行した旧ドイツ軍のユンカースJu86高々度爆撃機/偵察機などに用いられたものの、エンジンとしては短命に終わったそうで、今では幻のエンジンと呼ばれているそうです。
Jumo205対向ピストン2サイクルディーゼルエンジンの前で1時間近くへばりつくプレスご一行様
いくら幻のエンジンでも、一般人にはそれほど思い入れがないので、一向に動こうとしない一行をしり目に、キャップはさらにもう一回り。ガラガラの博物館なので、図らずもじっくりゆっくり3回目の見学して戻ってくると、日本のマニアの方々は、今度は違うエンジンにべったり。次に興味の的になったのが、ダイムラー・ベンツの「DB601」という倒立V型12気筒液冷式直噴ガソリンエンジンで、第二次世界大戦でメッサーシュミットなどの戦闘機に搭載されたほか、イタリアのアルファ・ロメオ社、日本の川崎航空機および愛知航空機においてそれぞれライセンス生産され、イタリアのMC.202、日本の三式戦闘機など枢軸国側の航空機エンジンに採用されたそうです。ちなみこのエンジンについても多賀氏は「名機である」と激賞していました。
今度はDB601倒立V型12気筒液冷式直噴ガソリンエンジンに見とれるマニアの方々
エンジン2基を見るだけで約1時間半を要した一行も遂に重い腰をあげ、ようやく他の展示物を見学することになりました。ところがまたまた興味深いものを発見します。博物館の一番奥まったオープンスペースに作業場があり、そこで白髪の老人が一心不乱に作業をしています。どうも古い航空機のエンジンをレストアしているらしい。それを一行が興味津々で眺めていると、老人が「おいで! おいで!」と手招きしてくれました。
博物館の一番奥に設けられた作業場ではオーバーオールの白髪の老人が何やら作業をしていました
作業場に招かれて、老人のレストア作業に興味津々のプレス一行
ドイツ語しか話せないようなので詳しくはわかりませんが、若いころは航空機の製造に携わっていたようで、エンジンをはじめ航空機にまつわる壊れた古い部品などが持ち込まれたら、すべて手づくりで直してしまうんだと自慢していました。おそらくボランティアだろうと思いますが、本当に飛行機が好きでたまらない様子。東洋の飛行機マニア、エンジンマニアも感激の面持ちで身振り手振りでコミュニケーションを取り、最後は固い握手をしてようやく博物館を後にしました。
メカ好き・飛行機好きが日独友好の固い握手を交わします
いつまでも名残りを惜しむマニア氏なのでありました
IAAでは、世界最先端のトラックの先進技術を見ることになりますが、それが一朝一夕に生まれたものではなく、ドイツという国が伝統的に培ってきた技術力、あるいは職人魂がバックボーンにあることをまざまざと感じた航空史博物館の旅でした。
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