米国の新興トラックメーカーで、「トレ」シリーズなどの燃料電池大型トラックで世界をリードしてきたニコラが、裁判所に破産を申請した。今後はサポートなどの業務を続けつつ事業の売却を進めることにしている。
EVへの逆風やトランプ政権での政策転換などがあり、米国の新興メーカーは苦しい状況に置かれている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Nikola Corporation
燃料電池大型トラックの先駆け、米国のニコラが破産申請
米国の新興トラックメーカーのニコラ・コーポレーションは2025年2月19日、連邦破産法第11条(チャプター11)による破産を申請した。既に販売したトラックに対するサービスとサポート、および「ハイラ(HYLA)」ブランドによる燃料の供給は2025年3月末までは継続する。
2015年に創業したニコラは水素燃料電池EV(FCEV)およびバッテリーEV(BEV)の大型トラックを開発しており、その社名(発明家のニコラ・テスラに由来するものと思われる)もあって、「テスラのライバル」とされてきた。
2020年に上場し、一時は時価総額でフォードを超えるなど商用車の電動化に向けた時代の寵児として期待されが、車両が完成しているように見せかけて資金調達を行なった手法が問題になり(トラックが自走しているように見える映像は、実際には坂道を下っているだけだった)、創業者であるトレバー・ミルトン氏が辞任。同氏に対しては投資家を欺いた罪で後に懲役4年の実刑判決が下された(控訴中)。
この事件をめぐっては米国の証券取引委員会(SEC)が調査に乗り出し、ニコラが巨額の和解金(1億2500万ドル)を支払って調査が終了している。
ニコラは当初、FCEVの「ニコラ・ワン」を開発していたが、事件を受けて開発を中止。イタリアの大手トラックメーカー・イヴェコと提携し、欧州市場向けの大型トラック(米国のボンネットタイプではなく、欧州スタイルのキャブオーバー車)として計画していた「ニコラ・トレ」を北米市場にも投入した。
(北米市場向けの「ニコラ・ワン」後継車の「ニコラ・ツー」は2024年の発売を予定していたが、幻に終わりそうだ)
トレはイヴェコの新世代フラッグシップ「S-ウェイ」大型トラックをベースにBEVとFCEVの両方を展開し、またハイラによる水素供給も始めるなど、長距離トラックの脱炭素においては間違いなく時代の最先端にいた。
しかし、SECとの和解後も株価が回復することはなく、資金調達に苦労した。イヴェコと合弁で行なっていた欧州事業はイヴェコに売却し、手元のキャッシュを確保するとともに北米市場に注力したものの、2024年には翌年の第1四半期で事業資金が尽きると警告していた。
そしてこのたび、デラウェア州の裁判所に正式にチャプター11を申請したという流れである。
事業の一部、もしくは全部を売却へ
プレスリリースによると、ニコラはサポート業務など限定的な事業を継続するため4700万ドルの資金を残した上で破産を申請したといい、同時に事業売却手続きを進めるための承認を裁判所に求めている。
同社の社長兼CEOのスティーブ・ガースキー氏のコメントは次の通りだ。
「従業員の献身的な取り組みとパートナーからの支援を通じて、ニコラは輸送の脱炭素を実現するべく積極的に取り組んできました。北米市場で初めてとなるFCEV大型トラックを発売し、カリフォルニア州の南北を結ぶ水素充填ハイウェイを構築しました。
弊社のお客様による累積走行距離はBEVとFCEVの合計で330万kmに達し、HYLAブランドによって提供した水素は330トンに上ります。
いっぽう、電動車両を手掛ける多くの自動車メーカーと同様、弊社もまた事業に大きな影響を与える市場およびマクロ経済的な要因に直面しています。この数か月は資本強化、負債の圧縮、バランスシートの整理、事業継続に向けたキャッシュの確保のために様々な措置を講じてきました。
残念ながら、弊社のこれらの努力は直面する課題を解決するのに充分ではなく、取締役会は本日、ニコラとその利害関係者にとって最善の道はチャプター11の申請であると判断しました」。
ニコラは事業継続のために利用できる解決策を模索したが、取締役会は事業売却による資産価値の最大化が最善策であると判断し、チャプター11による破産を申請した。今後は資産の全て、もしくは実質的な全て、あるいは一部を売却し事業を縮小する。
FCEVは大型トラックの脱炭素において本命とされる技術だが、現状の燃料電池システムは非常に高額で、政府などの補助金が頼みだ。米国のトランプ大統領はEVの補助金を廃止するなど前政権からの政策転換を進めており、新興EVメーカーには逆風が吹いている。
【画像ギャラリー】世界最先端を走っていたニコラのBEVとFCEVトラック(9枚)画像ギャラリー
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