近年の防衛産業での需要増に対して、ダイムラー・トラックが軍用車の供給を拡大している。
ダイムラーグループで防衛セクターを担うメルセデス・ベンツ・スペシャル・トラックスは、商品レンジ、品質、セールス&サービスネットワーク、そして防衛産業におけるパートナーシップの拡大などを図っており、アブダビで開催される世界最大規模の防衛機器の見本市「IDEX」トレードフェアにも出展する。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
防衛セクターの需要が増加中?
ダイムラー・トラックが成長戦略の一環として軍用車の開発・生産・販売に力を入れている。
新しい車両バリエーションの導入、既存のセールス&サービスネットワークの品質向上など、防衛セクターの需要により早く、より広く対応する考えで、製造能力の向上と、新技術・開発・販売に関するパートナーシップの拡大を通じて、ユーザーに最適なポートフォリオの提供を実現したいようだ。
ダイムラー・トラックで防衛部門を担うのは「メルセデス・ベンツ・スペシャル・トラックス」ビジネスユニットで、消防・防災・公共車両なども担当する部署となる。
ドイツのヴェルト・アム・ラインと、フランスのモルスハイムに工場があり、独自の研究開発と大口顧客の要望に応じた大量生産を行なっている。
軍用車は極限のオフロード性能が要求される車両だが、オフロード車の代名詞となっている「ウニモグ」や軍用トラックの「ゼトロス」、さらに「アテーゴ」「アクトロス」「アロクス」といった民生用トラックをベースとした様々な完成車も扱う。もちろんリクエストに応じて特殊な装備を追加することも可能だ。
最近、同社はゼトロスシリーズに更なる投資を行ない、2軸から4軸の全輪駆動(4×4から8×8)、キャブプロテクトの有無、シングルタイヤ/ダブルタイヤ、対応する排ガス基準など様々なタイプが提供できるようになった。
またウニモグをベースとする「FGA」シャシーを販売しており、顧客国が現地生産できるようにノックダウンキット(いわゆるCKDコンポーネント)も提供している。
同社を率いるフランツィスカ・クスマノ氏は次のように話している。
「弊社は防衛産業における事業を着実に拡大しています。『成長と投資』というモットーに従って明確な戦略を立て、昨年は多くの契約を獲得し、大量の車両を引き渡しました。
これは私たちのソリューションが様々な顧客ニーズと、異なる開発シナリオに合わせてカスタマイズされていることを表しています。アブダビで開催されるIDEXフェアでも、それをお見せできると思います」。
2025年2月17日から21日までアラブ首長国連邦の首都アブダビで開催される世界最大級の安全保障・防衛見本市であるIDEX(国際防衛エキシビション)で、同社は軍用ポートフォリオの一部を展示する予定だ。
超法規的措置により日本でも活躍した「ゼトロス」
メルセデス・ベンツの「ゼトロス」は交通インフラが充分ではない場所で機動力を確保するために設計された軍用トラックだ。
東日本大震災の際に、交通網が破壊された東北地方の復旧・復興のためにダイムラー・グループ(当時)から日本に寄贈されたことを覚えている方も多いのではないだろうか?
欧州規格のゼトロスは車幅が日本の保安基準の2500mmをオーバーしてしまい、公道を走行するには許可が必要だが、当時は「超法規的措置」により運行が認められた。
エンジンコンパートメントが前方にあるボンネット型トラックは、キャブをフロントアクスルの後方に配置することで全高が抑えられ、振動や衝撃を軽減するとともに不整地でも安全に高速走行することが可能。
また、エンジンの整備等を行なう場合もキャブチルトする必要がないため、通信システムなど一部の車両機能を車内で継続して使用できることも、軍用車として重要な要件だ。
全モデルが「OM460」型ディーゼルエンジン(直列6気筒)を備え、出力は最大375kW(510hp)。排気量12.8Lで最大2300Nmのトルクを発揮する。NATOの「F-34」燃料も利用可能だという。
16段トランスミッションもしくはアリソンのトルクコンバーター式オートマチックトランスミッション、2ステージトランスファーケース、連動式ディファレンシャルロックなどを備え、大きく取ったアプローチ/ディパーチャーアングルと渡河能力により、砂地、泥濘地、河川の横断中、急峻な地形でもトラクションを確保している。
IDEXでは「ゼトロス 3351 AS 6×6」3軸トラクタと、「ゼトロス 2036 A 4×4」2軸トラックを展示する。
第五輪を架装し、セミトレーラをけん引可能なトラクタタイプは、主に装輪車/装軌車の輸送に用いる。アリソンのリターダー付きAT「4500SP」との組み合わせにより、過酷なオフロードでも優れたダイナミクスを発揮するといい、自動化された6段トランスミッションは、トルクが途切れずスムーズに発進・加速できる。
さらに、全ての車軸がデフロックを、全輪がタイヤ空気圧制御システムを備えることで、不整地でのトラクションはいっそう向上する。
HPCマシーネンバウ社のダブルウィンチにより総重量70トンの車両を積載することが可能なほか、ルオー社(フランス)のグースネック型ローローダーと組み合わせた場合、ペイロード70トンを時速80kmで運搬することができる。このトレーラは油圧式アウトリガやタイダウン(固縛)エレメント、フレーム/カーゴエリアの追加スペース、タイヤ空気圧制御システムなど、未舗装路で重量物を運搬することに特化している。
高機動タイプの2軸車は全長8840mm、全幅2550mm、全高3560mmとコンパクトで、ホイールベースも5100mmと小さい(日本の保安基準は超えるが……)。車両総重量(GVW)は16.5トン。低ねじれプラットフォームを採用するボディは、機材・兵員輸送車として設計されている。
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