5月21日、三菱ふそうトラック・バスと岩谷産業はサブクール液化水素(sLH2)充填技術の共同研究開発について基本合意書を締結したと発表した。商用車における液体水素の活用に向けて期待が大きい技術といわれているsLH2。はたしてどんな技術なのか?
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ダイムラートラック・フルロード編集部
※参考:JARIと岩谷産業が実施したNEDO委託調査「大型FCV燃料装置用液化水素技術に係るフィジビリティ調査」結果より
ダイムラーグループが進める燃料電池トラックの試み
常温で気体である水素はマイナス253度という極低温で液化する。この液化水素は、重量エネルギー密度がガソリンよりも大きく、体積は水素ガスの1/800ほどになる。
液化水素は極低温で貯蔵が必要になるため扱うハードルは高いが、燃料電池トラックの燃料として活用できれば、大型車の電動化における課題の1つでもある、ディーゼル車並みの長距離輸送を実現できる可能性を秘めている。
こうした液化水素に着目し、商用車メーカーとして世界に先駆けて運用技術の確立を目指したのが、三菱ふそうの親会社であるダイムラートラックで、同社は2020年9月に液化水素を燃料とするGen H2トラック(燃料電池トラクタ)を発表した。
その後も開発が進められ、2022年にはボルボトラックとの合弁会社、セルセントリック製のFCシステム2基を搭載したGen H2の走行テストを実施している。同テストでは2本の水素タンクに計80kgの液化水素をフル充填、かつ25トンのウエイトを積んだセミトレーラを引いて、航続距離はディーゼル車並みといっても遜色ない1000km超を達成した。
また同社は、リンデ社とともに共同開発した新たな水素充填技術である、サブクール液化水素(sLH2)充填技術を活用した実証を2024年からアマゾンなどの大手の物流企業で開始。詳細は後述するがsLH2は充填時の水素損失が少なく、車両・インフラ両面でコストを低減することができる。現在最も利点が多く液化水素の充填・貯蔵技術として有望視される技術なのである。
三菱ふそうと岩谷産業が共同研究を開始
今回の三菱ふそうと岩谷産業の共同研究では、ダイムラーがオープン技術とすることを検討しているこのsLH2充填技術の確立を日本で目指すというものだ。
両社は、sLH2充填技術に関する研究開発を共同で行ない、液化水素に関する規制および認証に関する調査、充填インフラに関するビジネス関連事項の調査、充填インフラや水素燃料車両の普及に関するマーケティング活動などの取り組みを進めていくとしている。
なお、現在日本では燃料に70Mpaの圧縮水素を使用した燃料電池大型トラック(単車)の実証が行なわれているが、いすゞとホンダが行なっているギガFUEL CELLの場合、航続距離は約800km(搭載水素:56kg、ウエイトは非公表)、日野とトヨタが物流企業で実用供試を行なっている日野プロフィアZ FCVの場合は約600km(搭載水素:約50kg、ウエイトは11トン)ほどである(いずれも独自モードでの計測で単純比較はできない)。
またキャブ後部に荷台スペースを犠牲にして水素タンクを搭載しており、航続距離に加え荷室容積などの面でもディーゼル車には及ばない。
いっぽう液体水素が活用できるようになれば、航続距離を確保しつつ水素タンクの本数を減らすことも可能になるため、積載スペースの確保という点でも有利といえるだろう。
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