液体水素のメリット
GenH2は液体水素の「sLH2」を燃料としていることが特徴で、トライアルのためヴェルト・アム・ラインとデュイスブルクの2か所に充填ステーションが建設された。期間中、285回の燃料補給により約15トンの液体水素を消費した。
ダイムラーは水素技術において、気体ではなく液体の水素を優先している。これは燃料のエネルギー密度を重視しているためで、密度の高い液体のほうがより多くの水素をタンクに充填できるからだ。1kgの水素は1リットルの軽油の約3倍のエネルギーをもっており、40kg容量の液体水素タンク2つで従来のディーゼル車と同等の航続距離を実現できる。
また一般に液体は気体より輸送が容易で、大規模な供給網の構築を目指す場合、コストと重量の両面で液体水素のメリットが上回り、特にトラックでは積載量や架装スペースといった車両側でも液体水素の利点が多い。
こうしたメリットがあるいっぽう、水素を液化するために必要な極低温の維持・管理という技術的ハードルの高さは課題で、取り扱うためには従来と異なる専門知識も必要となる。
トライアルにおいても顧客に対するサポートを提供するため、アフターセールスでの対応が必要だった。技術支援を含むフルサービスを提供するため、1社ごとに専任窓口を設け24時間体制で対応するとともに、特別に訓練されたスタッフを配置した。
今回はメルセデス・ベンツ・トラックスの2支店でGenH2向けの特別トレーニングを実施し、定期点検・メンテナンス・修理などは高度な資格をもったサービス担当者が実施した。
開発チームとアフターセールスの連携に加えて、顧客側のドライバー、エンジニア、カスタマーサービス等が緊密に連携したことが初期トライアルの成功要因だといい、ダイムラーはこうした経験に基づいて、100台規模のFCEVトラックをサポートできるようにアフターセールスの強化を準備している。
次世代FCEVトラックの開発も同時にスタート
ダイムラーは第2ラウンドのカスタマートライアルを2025年第4四半期から開始する。これは以前から計画されていたもので、使用するトラックは今回のトライアルと同一。実際のユースケースについて更なる経験を積み、量産に向けた準備を整えることを目的としている。
併せて同社は、次期FCEVトラックの開発フェーズを並行してスタートしたことを明らかにした。次世代型のFCEVトラックは100台規模の少数量産(数は少ないが工場の量産ラインに乗せて生産する)を同社ヴェルト工場で行なうことにしており、2026年末以降に今回同様、顧客のもとでの試験を行なう予定だ。
大型トラックで世界最大手のダイムラー・トラックは、商用車の脱炭素化において電気と水素の両方の技術開発を進めるデュアル・トラック戦略を一貫して採用している。
しかし、水素ステーションの整備は当初の想定よりはるかに遅れており、今後数年間は水素を燃料としたトラックを大量に運用できる状況ではない。
また、米国ではトランプ政権により環境政策が大幅に転換され、北米市場でのゼロエミッショントラックの見通しが立たなくなっている。そのため水素トラックの大規模な商用化は、欧州を中心に2030年代始め(以降)となる見通しだ。
【画像ギャラリー】トライアルを完了したMB「GenH2」トラック(4枚)画像ギャラリー
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