トラック同士の追い越しはますます困難に!? ひしひしと感じる「大型車の最高速度引き上げ」にともなう道路状況の変化

トラック同士の追い越しはますます困難に!? ひしひしと感じる「大型車の最高速度引き上げ」にともなう道路状況の変化

 2024年4月から道路交通法が改正され、総重量8t以上または積載量5t以上のトラック(牽引は除く)の高速道路での最高速度が引き上げられた。トラックドライバーからは、それにともなう道路状況の変化を感じる声が多くあがっている。

 今回の急ごしらえの改正自体賛否が分かれるとこだが、ここでは「最高速度引き上げ」により、道路状況にどんな影響がでているのか? また道路状況の変化にどう対応すべきか? トラックジャーナリストであり現役トラックドライバーの長野潤一氏に考察してもらった。

文/長野潤一、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2024年6月発行「フルロード」第53号より

大手でも速度引き上げ

4月から大型トラックの最高速度は時速90キロに。80キロが継続されるトレーラ・三輪が一緒の速度標識となっており、急ごしらえの法改正に標識の変更が追い付いていない(速度標識のランプは消えている)
4月から大型トラックの最高速度は時速90キロに。80キロが継続されるトレーラ・三輪が一緒の速度標識となっており、急ごしらえの法改正に標識の変更が追い付いていない(速度標識のランプは消えている)

 この4月は自動車運送業にとって変革となる制度改正が幾つもあった。もっとも大きいものは、いわゆる「2024年問題」、年間960時間の時間外労働上限規制の開始である。ただ、運送会社の多くはすでに新制度に準ずる労務管理を行なってきている。

 いっぽう、荷主(主に倉庫など)の荷待ち時間に劇的な変化があったかというと、あまりない。総合すると大きな状況変化は感じられず、これから徐々に良いほうに向かえばよいと思う。

 それにくらべ、明らかな変化を感じたのは、高速道路での大型貨物自動車の最高速度90キロ(km/h)に引き上げにともなう道路状況の変化である。

 どのように変わったかというと、これまでは「大手80キロ、下請け(傭車)90キロ」という不文律のようなものがあった(主に路線の話)。

 それが、大手でも長年の「しきたり」を破り、90キロで走るところが現れはじめた。下請けは、多店舗積み、多店舗降ろし、遠隔地など、自社便では間に合いそうもないコースを受け持つことが多く、いわば「スピードの匠」。

 走り方にも、キッチリ間に合わすという矜持(プライドと技)がある。「高速を90キロで走るぐらいでちょっと大袈裟だろう?」と思うかも知れないが、総重量マックス25トンもある車両を走らせるのは、乗用車で120キロ出すのとは訳が違う。

 道路の危険な箇所を知り尽くしていなければ事故をひき起こす。大手が90キロ出すと何が変わるかというと、トラックの追い越し時に90キロどうしでなかなか追い越せず、横並びが長時間続き、後ろに車の列ができてしまうという場面が増える。

大型トラック同士が横に並んで車線を塞いでいることがある。みんなが90キロで走るようになると、こうした場面は増えることになる
大型トラック同士が横に並んで車線を塞いでいることがある。みんなが90キロで走るようになると、こうした場面は増えることになる

 これは80キロの時でも起こる現象だが、90キロの場合はスピードリミッターの限界にも近いため、そこから更に加速して追い越すということができない。

 大手のドライバーは、プロフェッショナルで運転技術も高く、ドライバー業界のいわばエリートであるが、80キロの時代には坦々と自分のペースで走ることができたのに対し、これからは他車との駆け引きも重要になってくる。 

トラックの速度の歴史

 大型貨物自動車の高速道路での最高速度が80キロと定められたのは、1963年に日本に初の高速道路、名神高速(栗東~尼崎間)が開通した時である。従って、今年4月の90キロへの引き上げは、約60年ぶりの改正となる。

 当時、乗用車と大型バスの最高速度は時速100キロと定められた。大型バスに関しては、何度も実際の走行試験をして、「100キロなら安全に走れる」というお墨付きが与えられた。

 乗用車と大型バスで初めて改正が行なわれたのは2017年で、新東名・新静岡IC~森掛川IC間(50.5km)と東北道の一部で110キロの試験運用が始まった。さらに、2020年に新東名の御殿場JCT~浜松いなさJCT間が6車線化され、120キロの本格運用が始まった。

 引き上げのための正式な議論が始まったのは2013年で、試行までに4年、改正までに7年を要している。警察は引き上げに慎重であった。

 それに引き換え、今回の90キロ引き上げは、議論が始まった23年7月から1年経たずして改正された。「2024年問題」に急遽間に合わせた感が否めない。

 余談だが、大型バスやマイクロバス、4トン車が120キロ区間で120キロ出すのは合法であるが、科学的な走行試験はされておらず、いささかの危険性を感じる。

 4トン車を含む中型トラックの高速道路での追突事故などが頻発し、その対策として中型免許が設けられたのが2007年である。免許取得を難しくしたかと思えば、速度を引き上げ、一貫性がない。

 大型貨物に話を戻すと、約60年間変わらなかった「80キロ」だが、実際には制限なしの青天井の時代もあった。

 私がトラックに乗り始めた1992年(平成4年)頃は、大型トラックはスピード化の時代だった。エンジンの技術は直6インタークーラーターボ化で成熟しており、高出力化(現在よりは低い)していた。時速120キロで巡行でき、中には140キロで走るトラックもいた。

 宅配各社は関東~関西間で夜預かり翌朝配達のスピード競争をし、高速で走る路線ドライバーを主人公にしたテレビドラマまであった。しかしながら、大手では80キロの遵法運転を守っているところも多かった。

 当時の光景を振り返ると、新東名などまだ無く、夜の東名にはトラックがひしめいていた。キャビンの上には3連の速度表示灯があり、対向車線にはその緑色の光が果てしなく続いた。トラックの密度が余りにも高いため、ライトコミュニケーションによる譲り合い、時にあおりもあった。

 1990年(平成2年)に道路運送法が「物流二法」に変わり、トラック運送業は免許制から許可制に……。規制緩和が始まる。

 事業者数は4万社から2013年には6万3千社に増加。ほとんど寝ずに走るため、高速道路での玉突き事故などの大きな事故が多かった。

 そんな中で速度を規制しようという動きが出て、2003年の新車から90キロの速度抑制装置(スピードリミッター)が順次導入された。2024年3月まで約20年間、「制限速度80キロ・リミッター90キロ」の時代が続いた。

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