南インド 「激アツ!」 トラック紀行 その8

南インド 「激アツ!」 トラック紀行 その8

渡りの達人

インドでは、道が空いていたらクルマもバイクもできるだけ飛ばすし、混んでいても、クラクションとパッシングでわれ先に前へ前へと詰めるのが当たり前である。さて、そこで困ったのが歩行者の道路の横断である。街の中心から少しでも郊外に出ると、幹線道路には信号も横断歩道もほとんどなく、あったとしても運転手は当然のごとくそんなもの無視するから、道路の横断はまさに命がけなのである。インドには「歩行者優先」なんて交通ルールは存在しないから、歩行者自身が道路横断の「ワザ」を修得しなければならないのだ。

それは南インド・チェンナイ到着2日目のことだった。我々一行を乗せたバスの眼前で繰り広げられた老人の「渡りワザ」が凄かった。それは「渡りの達人」と呼ぶにふさわしい老練のワザであった。老人は、道路の際に静かに立ち、道路の右から来るクルマ、左から来るクルマのスピードを一瞬で見極め、あとはスタスタ・スタスタ、何ら右顧左眄することなく、まっすぐ前を向いて道路を渡り切ったのである。もちろん我々を乗せたバスは、老人が道を渡っていようがまったくスピードを緩めない。我々は「アッ、危ない!」と叫んだのだが、それは杞憂であった。急ぐでもなく後れるでもなく、老人が道路を渡り切った瞬間、バスがサッと通過するという絶妙のタイミングであった。あとに残るのは、老人の着ていた白いクルター・バジャマの裾を揺らす風であろうか。それは「七人の侍」で宮口精二が演じた剣豪の久蔵の居合いの見切りを想起させる神業に等しかった。また1つインドの奥深さを知った。インドには「渡りの達人」がそこここに存在するのである。

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インドの男性の民族衣装「クルター・パジャマ」を着た「渡りの達人」

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一般的な渡りのスタイル

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実は、彼も隠れた達人であった

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チェンナイ駅前の信号も横断歩道もない道路で「みんなで渡れば恐くない」を決行しようとする人々。でも、みんなで来たって、譲らないのがインド流

 とはいえ、まだまだワザの修練が足りない未熟者も多々目にする。日もとっぷり暮れ、バスの運転手は我々のホテル帰着の時間が遅れがちなので、ややイラ立っていた。とはいっても、目の前の道路は渋滞気味で詰まっている。そこへ十代とおぼしき若者が道路を渡ろうと、意を決して我々のバスの前に飛び出してきた。彼は「この渋滞なら道路を渡れる!」と踏んだのであろう。しかしながら、バスから盛大にクラクションとパッシングを浴びせられ、エンジンを吹かして今にも自分めがけて突進して来そうなパスを見て、彼はスゴスゴと元の場所に戻ったのである。「フフッ、まだ青いな、若造!」。「渡りの達人」への道のりは、まだまだ険しく長い。

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