トラッカーのための「道草」知っと講座

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伸びすぎたのはあなたのせいよ「クズ」

クズは、やっかい者である。そこんところは「人間のクズ」と称される一部の人間と一緒かもしれないが、植物のクズに関しては本人に何ら責任はなく、それどころかクズは、かつては日本人の生活に多大な貢献を果してきた立派な植物なのである。だから、本当はクズを「クズ」などと呼んではいけないと思うのだが、「じゃ、クズの代わりにどない名前があるねん!?」と言われると、やっぱりクズしか思い当たらず、クズの改名計画は早くもグズグズになるのであった。

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線路際の石垣に繁茂するクズ よく見かける光景です

クズを雑草とみなすと、確かに「やっかい者」のレッテルを貼りたくなるのも分からないではない。一説に1日1mもツルが伸びると言われるほど、6月から8月にかけての成長はすさまじいものがある。ツルが草地を這い回って、あっという間に繁茂してしまい、低木林ならその上を覆い尽くすし、電柱や電線に絡んでいる光景もよく見かける。もちろん、高速道路の法面(土手)やら空き地やら、クズはどこにでも生えているから、トラックドライバーもイヤというほど目にしているはずだ。繁茂する面積は、雑草としては一番多いかもしれない、まさに荒地の侵略者の印象である。

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フェンスがあっても、いとも簡単に乗り越えて侵略

 

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公園のキンシバイも「ア~レ~!」 クズに襲われていました

それに、今どきの若いツルは柔らかく切れやすいからまだいいが、秋になって乾燥したツルは固く切れにくくなるので、除草もやっかいなのである。しかもクズは、根茎により増殖するため根絶やしにすることはむずかしく、ツルの節から根を出し、あちこちに根付いてしまうから、今では「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されているほど、世界の嫌われ者になっている。

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コンクリートの電柱も制圧

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そして、あなたの足元にもクズが忍び寄る

クズは英語でも日本語由来の「kudzu」と呼ばれ、特にアメリカ南部で大繁茂し、大変な「困ったチャン」になっているらしい。アメリカからの外来植物や生物が日本で猛威を奮っている現状からすれば、唯一の日本代表の反撃に「クズ、頑張っているじゃん!」とひそかに応援したい気分になるかもしれないが、そういう話じゃないですからね(笑)。ただ、世界の嫌われ者・やっかい者と言われても、クズにはクズの言い分があることも確かだろう。

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何か言いたげなクズのツル

実は、このアメリカの場合もそうらしいのだが、クズはかつて人間の手によって盛んに栽培され利用されてきたのだ。アメリカでは、19世紀半ばに日本のクズに着目し、牧草や土壌流失防止(ダムなどの法面の保護)などに有用だとして盛んに栽培が奨励されていたのである。それが用済みになって、今度は「侵略的外来種だ」というのでは、クズも立つ瀬がないではないか。立つ瀬が無いから、クズは仕方なく地面を這い回っているのである。

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海外でも侵略的外来種としてやっかい者扱いされているグズ

古来、日本では秋の七草に数えられるほどクズは大切にされてきた。クズには「葛」という立派な漢字があてられ、葛のツルの繊維からは「葛布(くずふ)」が、乾燥したツルからはカゴなどもつくられたという。食品としては、ご存じのように葛の根からは葛粉(くずこ)が生成され、葛餅や葛切り、葛湯など、ごく身近な食品として重用されてきたのである。もちろん漢方の葛根湯(かっこんとう)もクズの根からつくられていることは言うまでもない。
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クズはマメ科のツル性の多年草で、葉は三出複葉。ツルには毛が生えている。8月から9月にかけて、赤紫の房状の花を咲かせ、甘い匂いがする。豆はちょっと枝豆に似た感じ。根は掘ったことはないが、長芋状の深い根となるそうだ。クズの根を万一の際の救荒食と考えるのも一興かも…。

それが今では放ったらかしである。一部「本葛粉」が細々とつくられ大切にされているものの、ほとんどの地域では、手のひらを返したようにやっかい者扱いである。クズはそれが面白くなくて、不良(植物)となって荒れ放題の生活を送っているのだ。それによって、さらに嫌われ者となり後ろ指を指されるという、グズ・スパイラルと言うべき悪循環に陥っているのである。

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クズは今日も有刺鉄線の上でクズ・スパイラルに陥っていた。しかし、クズは決して左巻きの植物ではないのだ。

しかし、そんなクズにも今、ひと筋の光が当てられようとしている。葛粉にはイソフラボンをはじめさまざまな薬効があることが確認され、自然食品・健康食品として再認識されているというのだ。さらにクズからバイオマスエタノールを抽出する技術も確立されたというから、やっかい者から一躍バイオエネルギーの寵児に転身する可能性も秘めているのである。
クズは「屑」にあらず。どうか皆さんもクズ君の更生を長い目・温かい目で見守ってやって欲しい。  (キャップ)

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