私は「現場叩き上げ」という人が好きである。以前取材で埼玉県入間市の冷凍車ユーザーを訪ねたことがあるのだが、30年ほど前、軽トラ1台で牛乳配達の仕事から始め、今では大・中型車を中心に約50台を保有する運送会社を経営するに至った社長の話がなかなか面白かった。まさに現場叩き上げで、今でも「オレの正装はツナギ服」と言い切るその人は、機会さえあれば、冷凍車を運転して得意先回りをするし、トラックの下に潜って整備もするという。何しろ仕事が楽しくて「トラック運送業はオレの天職だ」と言うのだから、話が合わないはずがない。大いに共感するところがあったし、示唆に富んだ話も聞けた。
中でも、「さもありなん」と思ったのは、昨今のメーカーの人間の変わりようである。もともと冷凍車ユーザーというのは、何事にも前向きに取り組み、トラックや冷凍機に対して一家言持つ人が多いのだが、むろんこの社長も人一倍研究熱心で、メーカーと手を携えて、絶えず「より良い車」を求める気持ちが強い人である。しかし、かつては「こうしたらどうだろう?」「ここはこうして欲しい」という意見や注文に対して、メーカーの担当者も真剣に取り組んでくれたし、意見が合わなければトコトン議論したものだけれど、今は「そんなこと出来ません」「それは私の仕事の範疇じゃありません」という人間がどんどん増えてきているという。「要するに机の前に座ってパソコン叩いて、コスト管理とか生産管理とか、そんなことが本来の仕事だと思っている若い連中がメーカーにも増えてきているんだよね。現場のことを知ろうとしないから、新しい提案なんて出てきやしないし、まるで情熱も感じられない。メーカーも辞められちゃ困るからあまり注意しないし、教育もしない。でも、メーカーの人間が現場のことを知らないでどうするの? 物づくりの原点は現場でしょう、メーカーが現場のニーズに開発意欲を見せなかったら、日本の物づくりって絶対おかしくなっちゃうよ」。
その話に関連すると思うが、もう10年以上前の話になるが、あるメーカーが新しい開発システムを確立し、新車の開発期間を約3年半に大幅に短縮したというニュースを誇らしげに発表したことがある。それ以来、自動車メーカーはこぞって新車の開発期間の短縮に血道をあげてきたし、今では企画から発売まで最短でわずか2年半をうたうメーカーもあるという。メーカーにとっては、市場ニーズに即した車をタイムリーに出せるし、開発コストを大幅に低減できるというメリットがあるのだろう。確かに、今は車づくりもモジュール化の時代だから、エンジンをはじめとするシャシーを横展開し、実験データ等のシミュレーションをパソコン上で叩けば、それで一丁挙がりで新車は出来ると思うが、メーカーが車づくりに対して、そんな無定見で本当にいいのだろうか。例えば、2年半の開発期間と言えば、満足な走行試験などとても出来ないと思うし、第一、パソコン上で帳尻を合わせただけで、実際の現場で鍛え上げられていない車など、どう考えても信頼できないではないか。
昨今、自動車メーカーのリコールが頻発している。人は訳知り顔で、「マスコミにリコール隠しと叩かれるのが嫌だから、メーカーはすぐリコールするようになったのさ」などと言うが、本当にそうだろうか。それよりも、現場を軽視し、「パソコン上での帳尻合わせ」が蔓延っている弊害なのではないのか。「物つくりの原点は、現場にある」。現場叩き上げの職人社長の言葉は、非常に重いと思う。(キャップ)