自動車の電動化を欧州が主導してきたのはご承知の通りだが、商用車分野ではメーカーの電動化戦略の見直しなどで「2030年に欧州の新車トラックの50%が電動化される」という見通しが実現するか不透明になっている。
いっぽう電動化で先行しBEV超大国となった中国では今、大型車の電動化が過熱している。大型トラックセグメントのBEV販売シェアは前年同期比で約3倍となる22%に達し、LNGトラックを超えた。2028年に電動車の比率が過半数を超えるという予想のほか、同年中に80%に達するという予想まで出てきている。
中国のBEVトラックが乗用車と同じ轍を踏むとすれば、ブームによる余剰生産が海外市場に向かうことになり、世界の商用車市場に影響を与える可能性があるほか、石油・天然ガスなどのエネルギー業界への影響も懸念される。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/CATL・三一重工・宇通・東風汽車・速豹科技
資料/INSTITUTE FOR ENERGY ECONOMICS AND FINANCIAL ANALYSIS
BEVは既に中国市場の主流に
米国のエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は2025年8月4日に中国のバッテリーEV(BEV)トラックと液化天然ガス(LNG)トラックに関する報告書を公開した。
中国ではディーゼル燃料(軽油)とLNG燃料の価格差が縮小したことなどからLNGトラックの販売台数が減り、代わりにBEVトラックの販売台数が大幅に増えた。中国政府が後押しする大型車用の交換式バッテリーの標準化なども追い風となり、大型BEVトラックのブームが起きている。
中国・北京に本拠を置く第一商用車網(CVworld)の最新データによると、2025年前半のBEV大型トラックの販売比率は22%に達し、前年同期の8.6%から3倍近くに急伸した。プラグイン・ハイブリッド車と燃料電池電気自動車を含めた新エネルギー車(NEV)の販売台数は2025年6月には過去最多の18,007台となった。大型トラックの4台に1台が電動化されている計算だ。
軽油に代わる代替燃料として、中国ではLNGトラックが一定のシェア(2024年は約30%)を持っていたが、直近では2か月連続でBEVトラックの販売台数のほうが多くなり、LNG車は勢いを失っている。
ロイター通信の報道によると、中国市場では乗用車を含む全車両セグメントにおけるNEVの比率が過半数を超え、今やBEVは主流といえる。BEV大型トラックのブームもその原動力となっており、このため軽油需要が減少に転じるという予想もある。
IEEFAは中国の大型車のトレンドが世界の商用車・エネルギー市場に影響を与える可能性についても言及している。
なぜBEVトラックが急増した?
中国でBEVトラックのシェアが急増した理由として指摘されているのが、LNGの相対コストが上昇したことだ。
LNGトラックの販売台数は、LNGと軽油の価格に大きく左右される。IEEFAによるとLNGトラックはディーゼル車より初期費用が18%高く、LNG価格が上昇すると初期投資額を回収するのにより多くの時間がかかる。LNG価格が安定していても軽油価格が下落した場合も同様だ。
トラックは生産財(利益を生むための道具)なので、こうした燃料価格の差は車両販売に大きな影響を与える。軽油/LNGの価格差は2024年のピーク時から3分の2まで縮小しており、LNGからBEVへの移行が起きている。これがNEV販売増加の一因というわけだ。
特に商用車では、総保有コスト(TCO)において優位に立つ「コストパリティ」が達成されれば一気に電動化が進む可能性が以前から指摘されてきた。事業者はより高い利益率を求めてTCOの低いBEVトラックを積極的に選択しており、中国市場は既にパリティに到達した可能性がある。
中国のBEV大型トラックは、車両価格ではディーゼル車に対して62~255%も高くなるそうだが、燃費や燃料価格・電気料金等によりTCOは10~26%低いとされ、政府によるインセンティブ(補助金)と合わせて事業者にとってBEVトラックの魅力が高まっている。
また、「バッテリー交換」技術の進捗もトラックの電動化を後押ししている。これまでバッテリー交換式トラックのメリットとして充電に必要な時間の短縮が訴求されてきたが、今般のブームにおいてより重要な要素となっているのが、コスト負担の在所である。
大型トラックを電気で駆動するには相応に巨大なバッテリーが必要で、バッテリーコストが車両価格の大部分を占める。バッテリー交換式の場合、バッテリーの所有者は交換ステーションの運営者となるため、運送事業者はバッテリーを所有するコストから解放される。
このためバッテリー交換はBEVトラックを導入する際の障壁となっている初期投資の高さを、かなりの比率で抑えることができるという。
自動車用バッテリーで世界最大手のCATLは、バッテリー交換式大型トラックは(ディーゼル車に対して)10万km当たり8320米ドル(約128万円)相当のアドバンテージを持つと主張している。これはLNGトラックの約3倍だといい、今、中国ではBEV大型トラックの3分の1がバッテリー交換式になっているそうだ。
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