トラック業界の「多重下請構造」は、仲介業者による中抜き・ピンハネによりドライバーの給与が低くなる要因として問題視されているが、相次ぐ規制緩和により全体像の把握が困難になっている。
取引を多重化する大義は「物流のワンストップ化などの付加価値を提供し、全体としてのコストを下げられる」ことだという。しかし、本当にそうした機能が果たされているのだろうか?
2025年6月4日に成立した「トラック新法」により従来の規制緩和の方針が転換され、政府の「トラック運送業における多重下請構造検討会」がとりまとめ案を公開しているので、同案より多重下請の実態と今後の方向性について前後編でお伝えします。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
図表/トラック運送業における多重下請構造検討会
「多重下請構造検討会」がとりまとめ案
2025年6月、政府の「トラック運送業における多重下請構造検討会 とりまとめ(案)」が公開された。
トラックドライバーの長時間労働・低賃金の要因として必ずと言っていいほど指摘されるのが、荷主から実運送会社までの間に何社もの仲介業者が介在する「多重下請」構造で、その実態の把握のために国交省が設置したのが「トラック運送業における多重下請構造検討会」(以下、検討会)だ。
他の産業と比べてトラックドライバーの労働時間は2割長く、収入は1割低いとされる。有効求人倍率は2倍を超える水準で推移しており、人手不足も常態化している。
2024年度から働き方改革関連法および改正改善基準告示の適用が開始され、ドライバーの労働時間短縮による輸送力不足、いわゆる物流の「2024年問題」が発生した。
物流の担い手を確保するためには適正運賃の実現が欠かせないとされ、「トラック・物流Gメン」の体制拡充や、中小受託取引適正化法(旧下請法)の改正、トラック新法の成立など、政府も様々な措置を講じてきた。
いっぽうの多重下請構造はトラック運送業自体に内在する問題で、3次請け、4次請け……と運送の再委託が繰り返されるたびに運賃から手数料が「ピンハネ」され、実運送を担う事業者に充分な運賃が支払われず、ドライバーの給与が低く抑えられる一因とされる。
こうした多重取引の是正を図ることには、国や業界団体等の関係者も一致する方針だが、法規制のない取次事業者の実態把握は困難で、そもそも荷主や関係者ですら全体像は把握していなかった。
検討会はまずは実態を把握するための調査を実施し、必要な対策を検討した上で、先に成立した「トラック新法」を踏まえて今後の方向性を示す「とりまとめ案」を公開した。
相次ぐ規制緩和が多重取引の要因に……
2025年6月4日に成立したトラック新法では「事業許可更新制」の導入など運送業の規制を強化する方向に方針転換が行なわれた。しかし、これまで運送業は規制を緩和する方向で制度改正が行なわれてきており、規制緩和が多重取引の遠因になっているという指摘は多い。
1989年に「貨物運送取扱事業法」(現・貨物利用運送事業法)が制定され、従前の道路運送法による「自動車運送取扱事業」の規制が緩和された。また、2002年にはその貨物運送取扱事業法も改正され、情報通信技術を活用した高度なサービスが可能になるよう、参入規制や運賃規制がさらに緩和された。
具体的には第一種貨物利用運送事業が許可制から登録制になり、運賃・料金についての事前規制が廃止、運送取次事業の規制も廃止された。
こうした緩和の目的だが、貨物の混載等による物流の効率化と荷主の負担軽減、最適な輸送モードを選択するモーダルシフトの推進、運送契約に関する書類作成等のコスト節減などを狙ったもので、今日問題になっている多重取引(複数段階での利用運送)も、トータルでは物流コストを低減させることが可能とされていた。
当時はインターネットを利用したサービスが急速に発達しつつあり、規制するよりは市場の自律に委ねることで柔軟な取引等の実現を期待するという狙いもあった。
ただ、規制の廃止により取引構造の実態や新しいサービス形態等の把握ができなくなっており、多重下請構造が規制緩和という政府の方針における「必要悪」として常態化した。
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