怒鳴られ過ぎて心身ともにボロボロ……!? 30歳でいきなり海コンの世界に飛び込んだトレーラ運転手が語る新人時代

先輩方に睨まれ怒鳴られる過酷な日々

 はじめは「横乗り」といって先輩運転手が運転するヘッドの助手席に座り、イロイロと教えてもらうんですけど、トラックにも乗ったことがないので、すべてがチンプンカンプンです。

 先輩運転手も「トラック経験のないヤツにどー教えたらいいんだ」なんて戸惑ってましたけどねぇ(笑)。4日間の「横乗り」を経て、今度は自分が運転するヘッドの助手席に先輩が座る「横乗り」が始まりました。あれは大変だったなぁ。

 トレーラの運転なんてマトモにできる状態ではなかったですから、先輩から怒鳴られ、現場で怒鳴られ、ヤードで怒鳴られ、道路では周りのクルマからクラクションを鳴らされ、「30にもなって、こんなに人から怒鳴られるか」ってくらい、怒鳴られましたねぇ。

 でもね、先輩達は怒鳴る時以外は、みんなやさしくて、ホント今でも感謝しています。横乗りを一週間で終え、一人でヘッドを運転し、先輩とツルんで走ることになるんですけど、この時もヒドかった。

 今まではね、先輩が助手席に乗っていてくれましたから、イザとなったら先輩が運転を変わってくれてたんですが、ツルんでいるとはいえ、イザとなっても運転を変わってもらえませんからねぇ、先輩から「そんなバック、教えた覚えはねーぞ!」なんて怒鳴られるし、現場では「バックできねーなら、二度と来んな!」なんて怒鳴られるし、怒鳴られる回数が増えます。

 そんな状態でしたが、どーゆーワケだか、翌週から、完全に独り立ちすることになりました。こっからはもう地獄の日々です(笑)。マトモにバックができないから、現場で怒鳴られ、無線で怒鳴られ、港に帰ってくれば、ヤードで怒鳴られ、シャシープールでは他の会社の運転手からイラつかれ、事務所に戻れば、専務からまた怒鳴られ……、みたいな状態で、心身ともにボロボロになりました。

 「もう辞めよう」なんて真剣に考えていた休日の日曜日に、自分にとっては「師匠」とも呼べる先輩運転手が電話をくれたんですよねぇ。

 電話の内容としては「もしかして、辞めようとか思ってないよな?」ってな言葉から始まり、「はい、やっぱ自分にトレーラはムリみたいなんで、辞めようかと思ってます」なんて伝えたところ、「夢だったんだろ、海コン運転手になるの。トラック経験もないのに、せっかくチャンスをもらったんだから、もう少し頑張ってみなよ。なんとかなるから」みたいな感じで、長い時間に渡って励ましてもらい、最後には「ありがとうございます! もう少し頑張ってみます!」と言って、電話を切りました。

 あの時、師匠から電話がなければ、たぶん海コン運転手を辞めていたと思うので、今でも感謝しています。

最大の悩み「バック」攻略のキッカケ

海上コンテナの荷降ろし先はバックで入る現場も多い
海上コンテナの荷降ろし先はバックで入る現場も多い

 「頑張ってみる」とは言ってみたものの、バックのウデは上がらず、やっぱり相変わらず悩んでいたんですよ。そんな時、チョットした事件が起きます。

 同じ会社の運転手というか、その人は個人でトレーラヘッドを所有している「ヘッド持ち込み」の人で、自分と同じ会社で仕事をしている、いわゆる「傭車(ようしゃ)」って立場だったんですけど、自分がシャシープールで長い時間をかけてバックしている時に、その人も同じレーンに台切ることになっていたので、けっこう待たせてしまったんですね。

 で、やっとバックを終え、シャシーを台切って、自分はシャシープールから離れてしまったんですけど、そしたらその人が、無線でムチャクチャ怒鳴り始めたんですよね。

 なんで怒鳴ったかっていうと、自分が長い時間かけてバックしている間、その人はずっと待っていたワケで、それなのに、その人の脚巻きの手伝いや、ワビの言葉もないまま自分が立ち去ってしまったもんですから、「礼儀がなってねーぞ、コラッ!」みたいな感じで怒鳴ってたんですね。

 しかし、そーゆーことがまだわかってなかった頃でしたから、自分が怒鳴られているなんて思わず、無線で「誰か怒鳴られてるなぁ」くらいな認識でしたもん(笑)。

 しばらくして師匠が「おい、○○さん、超イカってたぞ!」なんて電話をくれまして、その時に無線で怒鳴られてたのは、俺だったんだってことがわかりました。

 師匠が「あいつ、トラックも乗ったことないド素人なんで、勘弁してやってください」とか言って、なだめてくれたようなんですけど、相手は「○○組」とか「○○会」的な繁華街ではあまり出会いたくないような風貌の人だったんで、「俺、横浜港に浮かぶことになるのかなぁ……」なんて思いながら、もうね真っ青ですよ。

 事務所の前でその人が帰ってくるのを待ち、姿が見えた途端、土下座でもしそうな勢いで「さっきは、どうも済みませんでした!」と深々と頭を下げました。「テメー! この野郎!」くらいな勢いで怒鳴られるかと思いきや、ニコニコしながら「おー、○○ちゃん(師匠)からハナシは聞いたよ。トラックも乗ったことないんだって? 頑張ってるじゃねーか」みたいなことを言ってくれて、ホッと一安心(笑)。

 そこからチョットした会話が始まり、「お前、もしかしてバックの時、ハンドルをどっちに回していいのか、わからなくなってんだろ」なんて言われまして、正直に「はい、泣きそうになるくらい悩んでます」って答えました。

 すると「逆ハンとか思っちゃうから、こんがらがって、ワケがわかんなくなっちゃうんだよ。いいか、ハンドルの上側じゃなく、下側を持って、ケツを動かしたい方向にハンドルを切ってみな。そしたら上手く行くから」ってアドバイスをくれたんですよね。

 独り立ちしてから、出発予定時間より早く出勤して、港の中で毎日バックの自主練をしていたんですけど、翌日、早速言われた通り、ハンドルの下側を持ってバックをしてみると、あら不思議! 今までまったくコントロールできなかったケツが、面白いくらいに自由自在にコントロールできます。

 あれはビックリしたっていうか、「ウソだろ?」ってくらいな驚きでした。もうね、その日はウキウキ(笑)。最大の悩みだった、バック時のハンドル操作が解決したワケですから、まだまだ未熟な部分はあったものの、現場でのバックも上手くいき、シャシープールでのバックも、前日よりそーとーマシになったし、すげー嬉しかったのを、今でも覚えています。

 その日の夕方、その人と会ったので、「教えてもらった通りバックしたら、すげー上手く行きました。ありがとうございます!」なんてお礼を言うと、凄く喜んでくれて、それ以来、とても可愛がってもらいました。

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