追想記(並走車2)
私がとった幅寄せという行為は、トラックドライバーとしての30年弱の履歴の中で、後にも先にもない汚点だった。そして、あの時の乗用車のドライバーが本当に悪意があったのか、それとも……、と、他の理由を探してみるが、結局は本人しかわからないことでしかなかった。しかし、そんな中で「あれだけのスピード差があったのだから、幅寄せされても仕方ないだろう」と、相手の責任になすりつける情けない自分がいた。一方で、あの乗用車が、その後スピードを抑え、バックミラーから消えたことも、彼の真面目そうな顔と同時に、思い出していた。
それからも、追い越しを掛けると、スピードを上げる並走車に悩みながらトラックドライバーとして、一般道を、また高速を走っていた。
そんなある日、NHKの朝の番組を聴いていて、「何だこの人!」と、思った投稿があった。現在ではなくなっているが、以前、NHKでは早朝に、聴取者の投稿の時間帯を設けていた。そしてその時、当時最も多かった交通安全の話題に、元校長先生がトラックの運転に怒りをぶちまけているのを聞いた。
トラックドライバーから見ると、「何だお前!」という内容だった。
曰く「山口県内の国道二号線で、追い越し禁止にもかかわらず、トラックが猛然と追い越しを掛けてきた。しかも、簡単に追い越せない状態で、対向車が迫ってきているのにである。非常識にもほどがある。しかも、その先は工事中だったので停まったのだが、そのトラックの運転手は下りてきて、「俺を殺す気か」と、何やらがなっていたのである」と、まあこんな具合の投稿だった。
この元校長先生、自分がスピード上げて追い越しを邪魔したことを全く気が付いていない。
確かに、追い越し禁止の場所ではトラックの違反行為であることは間違いない。だが、我々トラックドライバーが、追い越しを掛けた時にスピードを一緒に上げられ、対向車が来たときには
「俺を殺す気か! 対向車の運転手も殺す気か!」
私だけではなく、誰もがそう思い、怒り心頭になる。つまり、対向車がいる時に追い越しを仕掛けるバカはいない。
この元校長先生、全く罪の意識がないどころか、自分のしたトラックと一緒にスピードを上げたという行為にも気が付いていない。だからこそ、このような投稿をしていたのに間違いない。
トラさんのブログ「長距離運転手の叫びと嘆き」
http://www.geocities.jp/boketora_1119/
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