液体水素の活用における課題
液化水素を断熱容器に収めて運ぶ技術は生産拠点からの大量輸送などですでに実用化されているが、燃料電池トラックにおいては生産材の燃料としての課題も多くある。
その課題の1つが、極低温での貯蔵技術で、LNG(液化天然ガス)のマイナス162度に対し液化水素はマイナス253度と遥かに低い極低温で貯蔵が必要になるため、外部からの入熱で気化するボイルオフガス(BOG)の発生を抑えることが難しい点だ(BOGはLNGなどの液化ガスでも発生する)。
BOGが発生すると圧力が上昇するため、容器の許容圧力以下になるよう定期的に貯まったガスを放出する必要がある(BOG保持時間がある)。また充填時においても、容器内圧力が下ることで発生するフラッシュガスやBOGを排気する必要があるなど、液化水素の運用にはさまざまな水素損失が伴うのである。
現在、その液化水素貯蔵システムとしては、従来技術である低圧充填・低圧貯蔵の「LH2」に加え、高圧充填・高圧貯蔵の「CcH2」、そしてダイムラーとリンデが2021年に開発した中圧充填・低〜中圧貯蔵の「sLH2」が考えられている。
従来型のLH2では、低圧設計(許容圧力は1MPa未満)の金属製容器(真空断熱)を使用できるため安価に製造できるというメリットがあるが、BOG保持時間は短く、前述の通り充填時にはフラッシュガスやBOGの排気を行なうため、水素損失が大きいというデメリットが挙げられる。
なお、岩谷産業の試算によれば従来方式では液体水素を100kg充填する場合、30kgものガスが排気されるという。
サブクール液化水素の実用化に向けて
これらのデメリットを解消すべく開発されたのがCcH2で、最高許容圧力が20MPa〜35MPaの超臨界領域を考慮した設計とし、BOGによる損失を抑えることができ(BOG保持時間は最も長い)、充填時のガス回収(排気)も不要となる。
ただし低温かつ高圧に対応する容器は金属や炭素繊維などで強化した真空断熱の複合容器となっており、重量は重くコストも高い。また充填用ポンプも低温かつ高圧に対応する必要があり、インフラやステーション運営コスト面でも課題が残るとされる。
いっぽうsLH2は、LH2よりは高圧設計(2〜2.5MPa程度)となりBOG保持時間も長く、金属製容器が利用できるためコストも安く製造できる。さらに、充填時に排気していた容器内のBOGの部分を再液化する技術を活用しており、水素損失を大幅に抑えることが可能だ。
また、充填用ポンプも低〜中圧の送液ポンプを活用するほか、一定の圧力で自動停止する車両・ステーション間のデータ通信が不要となるなど、ステーション運営コストも低減することができるため、液体水素の活用に向けて期待が大きい技術なのである。
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