事故や故障で動けなくなった車両のレスキュー作業を行なうレッカー車には、小型〜大型まで幅広いバリエーションが存在。ベース車両は国産トラックが基本だが、レッカー装置は大半がアメリカ製やヨーロッパ製だ。
いっぽう、奥野工業が2015年に発売した小型レッカー車「MASSA(マッサ)」は日本初の純国産レッカー車。都市部の立体駐車場や地下駐車場に対応する、国産ならではのコンパクト設計で注目を集めている。
フォークリフト用ティルトシリンダーの国内トップシェアを誇る老舗油圧シリンダーメーカーが開発した、日本初の純国産小型レッカー車の実力とは!?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
※2016年12月10日発売「フルロード」第23号より
日本初の純国産レッカー車を開発した
油圧シリンダーメーカーの老舗
奥野工業は1974年に創業。当初は豊田自動織機への織機部品の納入を行なっていたが、のちにフォークリフト用部品の納入、ならびに日本電装(現デンソー)への自動車電装部品の納入を開始。
現在はフォークリフト、パワーショベル、医療・介護用機器向け小型〜中型の油圧シリンダーをメインに、自動車部品、グレーチング(溝蓋)など幅広い製品の製造を行なっており、フォークリフト用ティルトシリンダー(マストの傾きを制御する油圧シリンダー)では国内トップシェアを誇る。
今回、同社初にして日本初の純国産小型レッカー車を開発したのが、同社のグレート事業部だ。同事業部は同社のベンチャー部門という位置付けで、ユニークな名前はグレーチングに由来。乗り越え防止機能付車止めなど、実用的かつユニークな製品開発を得意とする。
小型レッカー車の開発は、同社にアメリカ製大型レッカー車のアンダーリフト(牽引装置)用の油圧シリンダーの修理依頼が持ち込まれたのがきっかけ。開発は2013年に始まり、2015年に完成した。
立体駐車場や地下駐車場に対応する
コンパクトな車両設計
約2年の開発期間を経て完成したマッサは、都市部での軽〜普通乗用車のレスキューを前提に開発されているのが特徴。都市部での機動性を重視して、ベース車両にはホイールベース2500mm前後の3t積級小型トラックを採用する。
車両サイズは全長4510×全幅1690×全高1970mmで、都市部の立体駐車場や地下駐車場にも対応。4ナンバー(小型貨物車)サイズのため高速料金や税金に関しても優遇が受けられる。
ちなみに、街でよく見るJAFの同クラスの小型レッカー車のサイズは全長5.2m×全幅1.9m×全高2.4mほど(一例)。マッサはこれよりも一回りコンパクトなパッケージングとなる。
車両総重量は4100kgで、現行免許制度ではGVW3.5t以上7.5t未満(18歳以上)の準中型免許に対応。ちなみに2017年3月12日以前の旧免許制度の場合、GVW5t未満の旧普通免許で運転可能だ。
軽〜普通乗用車まで幅広く対応
小型トラック対応モデルも設定
バリエーションはシングルウインチでシンプルな装備のSタイプ、ダブルウインチ(2段ブーム)で充実装備のWタイプの2機種が基本。このほかに2〜3t積小型トラックの牽引に対応するロングホイールベース仕様のTタイプも用意される。
車両を吊り上げるウインチブームと車両を牽引するアンダーリフトは一体型を採用。吊り上げ能力は5500〜1800kg、牽引能力は2200〜1700kgをそれぞれ発揮し、軽〜普通乗用車まで幅広い車種に対応する。
なお、牽引時のフロントの浮き上がりを抑えるため、フロントバンパー内部とサブフレーム前方にカウンターウェイトを搭載。ユーザーからは小回りの良さに加え、カウンターウェイトによる重量バランスの良さ(=走行安定性)が高く評価されているそうだ。
サブフレームとボディはボルトオン式を採用。ヘヴィデューティな使い方でシャシーが損傷した際にはすぐに載せ替え可能で、部品も国産なので供給も安心。メインのSタイプとWタイプについては1000万円を切る低価格も魅力だ。
なお、現在同社は工場の建て替え工事を行なっており、マッサの製造・受注も一旦停止しているという。再開は今年3月以降になる見通しだ。