5月31日~6月3日の4日間にわたって開催された「東京国際消防防災展2018」に「フルロード」編集部もお邪魔してきました。
2013年以来5年ぶりとなる今回の展示会は過去最大規模となり、各社からさまざまな次世代の消防車・消防機器が登場。そのなかでもモリタは10台もの新型(参考出品を含む)消防車を出展し、来場者の注目を集めていました。「フルロード」の本誌のほうではなかなか消防車を取り上げる機会は少ないのですが、この機会に消防車で国内トップシェアのモリタの最新鋭消防車を紹介したいと思います!
ブーム先端部の破壊器具により建物を貫通し放水
破壊放水塔付自走式化学消防ポンプ自動車「レッドスカイランス」
密閉された建造物となる大型物流倉庫などの火災を想定して開発された、従来の屈折放水塔車のブームの先端に破壊器具(槍)を取付けた「レッドスカイランス」。ブーム先端の放水銃を備えた破壊器具が建物を貫き、同じく先端部に取付けられたカラーカメラと赤外線カメラを併用して屋外から室内へ直接放水することが可能になる。破壊器具はビルの鉄筋コンリート壁の貫通は無理だが、木造壁、窓、トタンなどは容易に貫くことができるという。また航空機火災も想定し、最大15km/hで走行しながらの放水も可能にしている。展示車はA-1級ポンプとCAFS装置を備え、3000ℓの水槽、1000ℓ原液槽×2(計2000ℓ)を搭載していたが、使用目的に応じて変更も可能だという。また今回、水槽などを有する展示車にコンセプトとして搭載されている車体横のLEDのレベルゲージは、デザイン性を向上させると同時に、3つの槽(水槽、原液槽×2)の残量をわかりやすく表示する(車体左右のポンプユニット操作モニターでも残量は表示されている)。
ブームの先端に放水銃、破壊器具、カラーカメラ、赤外線カメラを装備したレッドスカイランス。車両側面のLEDレベルゲージは、水槽、原液槽の残量を表示する。LEDレベルゲージは参考出品ながら、訪れた消防関係者からの評判も良いようで、実用化される可能性も高いと思われる
ホース延長車と送水車の機能を1つにまとめた
海水利用型消防水利システム「アクアコネクト」
水利の乏しい場所や震災などで水道が断水し消火栓が使用できなくなった場合などの特殊災害で活躍する遠距離大量送水システム。通常は送水車などと呼ばれる大型ポンプ自動車とホース延長車2台一対で運用される大掛かりなシステムであったが、今回発表された「アクアコネクト」は、中型クラスをベースにしたコンパクトな車体に同システムを1台に集約させたもの。送水用の最大3000ℓ/minのA-1級ポンプ、海水などから揚水を行なう小型動力付ポンプ(可動式)2台、左右のコンテナには30mホース計68本を搭載でき、水利から最大1km先までの送水を可能とする。
車体後部には昇降機が搭載され、ホース格納用のコンテナや可搬ポンプの積み降ろしも容易。コンテナや可搬ポンプを積み替えれば資機材運搬車としても利用可能だ。コンテナの天井は開閉式となっており、ホースの巻き取り装置をセットして上部からホースを格納。揚水用の可搬ポンプはトーハツ製で、遠隔からエンジンの始動・停止・給水操作が行なえるリーモートパネル(右写真)を備えたモデルだ
無尽蔵の空気を利用し窒素濃度を高めて防消火
窒素富化空気システム搭載車「ミラクル N7(コンプレッサー内蔵型)」
大気中の主な成分は酸素が20.95%、窒素が78.08%で、燃焼物質にもよるが、酸素濃度が16%を下回ると火はつかなくなると言われている。モリタの「ミラクル N7」はこうした低酸素を物理的に作りだす消火システムを搭載したクルマだ。その仕組みは、コンプレッサーにより圧縮空気を生み出し、窒素分離膜によって酸素と窒素を分離。窒素富化空気を送風して建物の窒素濃度を増やすことで酸素濃度を減らし防消火にあたるというもの。消化剤は空気のため、コンプレッサーが動く限り底をつくことがなく、水を用いないので建物に与えるダメージも少ない。このため危険物施設、精密機器が置かれた施設などで活躍が期待される。「ミラクル N7」はすでに日本原燃(株)の核燃料サイクル施設で消防設備のバックアップ消火システム(大規模災害などによる既存消火設備が使えなくなった場合を想定したもの)として導入されているが、今回展示された「ミラクル N7」は窒素富化空気の送風量は劣るが、別装備として必要だったコンプレッサーを車両に内蔵したモデルとなる。なお、大気中物質の大部分を占める窒素はそれ単体で人体被害はもたらさないが、酸素濃度低下による酸素欠乏症を引き起こす可能性がある。このため用途としては、有人施設においてはほとんど人体に影響がないレベルまで酸素濃度(約16%)を下げ防火、避難が完了した段階でほとんどの可燃物が消える濃度(約13%)で消火といった使用方法が想定される。
跳ね上げ式のボディ形状が採用された「ミラクル N7」。車体横のLEDレベルゲージでは酸素濃度、圧力、吐出流量を表示する
高い走破性と機動力を持ち突発災害に迅速に対応
小型オフロード消防車「レッドレディバグ」
地震や土砂崩れなどの突発災害においては交通網の寸断などが考えられるが、そうした状況下で災害現場にいち早く駆けつけるためには高走破性・高機動力が求められる。現在こうした役割を担うものに消防バイクなどが挙げられるが、消防バイクでは必要な資機材の運搬が限られてしまう。そこで今回、高い走破性と機動力を備えるとともに高い運搬能力も備えるオフロード車として誕生したのが川崎重工の多用途四輪車、MULE PRO-FX(EPS)をベース車に開発された「レッドレディバグ」である。同車は車体下部への接触や障害物への乗り上げが起きにくい車体設計で、約30度の登坂性能を有し、水深約40cmまでのオフロード走行も可能である。荷台部には脱着式の後部ボディユニットが採用され、現場の状況に合わせて積み替えも行なえる。また車体上部にはドーム型のカメラが搭載されており、高い走破性を活かして災害現場の状況をリアルタイムで指揮本部へ送信することも可能だ。
軽自動車並のコンパクトな車体で高い機動力を発揮する「レッドレディバグ」。通常、ベース車のMULE PRO-FX(EPS)は公道を走行することはできないが、各構造を変更しナンバープレートも取得可能に……(扱いは大型特殊自動車になる)。後部ボディユニットの中はスライド式の引き出しとなっており、資機材の入れ替えも容易に行なえる仕組みだ
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